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.国際  投稿日:2026/8/19

習近平の『5つの風範』とトランプの対北朝鮮融和


宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#33 
2026年8月17-23日

【本稿のポイント】

・習近平氏が提示した「5つの風範」は具体性を欠く精神論に過ぎず、実質は習体制への服従を求めるものだ。

・習氏を中核とする指導部への団結が強調されており、党の統制強化が狙いである。

・大会には党政軍の要人ら約6,000人が参加、江沢民氏の歴史的貢献とともに「5つの崇高な風範」の学習が呼びかけられた。

漸く「お盆休み」が明けた。毎年この時期、筆者は東京を離れない。観光地はどこも「大混乱」だろうが、都心は交通混雑もなく実に快適だからだ。しかも、私事ながら今週末には高校時代からのバンドのライブ公演が控えている。十数曲を暗譜した上でTサックスを演奏するのだが、どうなることやら?もう「おやじ」バンドですらないのに・・・。

さて今週のトピックは久し振りに中国だ。8月17日に人民大会堂で「江沢民同志生誕100周年記念大会」が開催されたので、新華社の中国語ニュース記事に目を通してみた。案の定、中国があまりに「相変わらず」だったので、思わず苦笑してしまった。記事の概要は次の通りだ。

・・・本大会を共催した機関は、中国共産党中央委員会、全国人民代表大会常務委員会、国務院、全国政治協商会議、中央軍事委員会(なるほどね・・・)。習近平・中共中央総書記・国家主席・中央軍事委員会主席以下、李強(司会)、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李希(政治局常務委員)、韓正(国家副主席)に加え、温家宝、賈慶林、張徳江、俞正声、栗戦書、汪洋など引退済指導者を含む中央党政軍要人、江沢民親族や首都各界の代表ら約6,000人が参加したという。

筆者の関心は専ら習近平総書記の「重要講話」の内容だが、これも「相変わらず」だったなぁ。以下、概要だけご紹介すると・・

  • 江沢民氏の生涯は「光輝に満ち、戦い抜いた生涯」であり、中国特色社会主義の推進に対する歴史的貢献を高く評価するとともに、以下の5つの崇高な風範(精神)に深く学ぶよう呼びかけた。
  1. 岩のごとく堅固な政治的信仰を学ぶ - 共産主義の理想と中国特色社会主義への信念を堅持し、「4つの意識」「4つの自信」「2つの維持」を自覚的に強め、党中央の集中統一リーダーシップと全面的な党の厳格な統治(全面従厳治党)を推進する。

  2. 真摯で深い人民への思い(為民情懐)を学ぶ - 「人民こそが江山(国家)である」ことを銘記し、人民を中心とした発展思想を堅持して、全体人民の共同富裕(共に豊かになること)へ向けた確実な一歩を踏み出す。

  3. 時代とともに進むイノベーション精神(与時倶進)を学ぶ - 解放思想と実事求勢を貫き、マルクス主義の中国化・時代化を進めるとともに、改革開放をより全面的かつ深めて経済社会発展に持続的な動力を注入する。

  4. 思慮深き戦略的思考(深謀遠慮)を学ぶ - 国内外の情勢(中華民族の偉大な復興と世界の100年に一度の大変局)を総合的に捉え、高品質な発展を推進するとともに、グローバル発展・安全・文明・統治のイノベーションを推進し、「人類運命共同体」の構築を目指す。

  5. 不屈で果敢な卓越した胆力(堅毅果敢)を学ぶ - 危険や課題に対して底線思考(最悪の事態を見据えた対応)を持ち、発展と安全をより良く統合して、国家の主権・安全・発展利益を断固として守り抜く。

以上に対し、司会役の李強首相は最後にこう述べたそうだ。

  • 習近平総書記の講話は極めて高い政治性・思想性・指導性を持つものだ

  • 全党・全国民が習近平同志を中核とする党中央の周りに一層固く団結すべし

  • 中国式現代化によって強国建設と民族復興の偉業を推進すべし

うーん、中国人民も大変だよなぁ。このような具体性のない抽象概念ばかり並べられても、一体何をすればよいのか?筆者にはチンプンカンプンだ。相当勉強しないと内容は理解できない。これからも関連の「学習会」は続くのだろうか。要するに、「総書記の言うことは全て正しいので服従せよ」ということだろう。

本来勝手気ままの自由人であるはずの中国の一般庶民たち、彼らには、唯々、「御苦労さま」としか言いようがない・・・。だが、今朝になって、これよりも更に驚くべきニュースが飛び込んできた。16日には米大統領が今年の米韓合同軍事演習の規模縮小を指示したというニュースを聞いて大いに仰け反っていたのだが・・・。

17日に米大統領は金正恩の反応が「とても前向き」だった、彼は「常に私に大きな敬意を示してきた。私は彼のことを理解し、彼も私のことを分かっている。とても仲が良い」などと述べたというから驚きだ。当然ながら内外メディアは、トランプ氏が金正恩との対話再開を模索しているのだろう、と分析している。

昨晩ワシントンの友人から突如メールが入り、「今見聞きしていることは自分には全く信じ難い」「貴兄や同盟国日本の友人に対し『これは決して’我々’のやることではない』と確信をもって申し上げたい」などと書いてきた。筆者は「これはイラン戦争「隠し」なのだろうが、成功しそうにないね」と返信した。何と分かり易い大統領なのだろう!!

さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「プーチンの択捉訪問の陰で中国依存深めるロシア経済――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者も中露関係には強い関心があるのでとても興味深く読んだ。

プーチン大統領の択捉島訪問のニュースは、ロシアでも大きく報じられた。ロシアのメディアでも専門家らの分析が伝えられたが、今回の訪問を「領土交渉の終焉」と位置付ける見方、「安全保障環境の変化」を背景に挙げる見方、「それでも対日関係改善の扉は閉まっていない」とする見方など、その評価は様々だ。

ただ、このニュースについては別途拙稿でも取り上げたので、ここではプーチン大統領の択捉訪問が注目を集めるなか、ロシア経済がますます中国への依存を深めている様子が分かる報道をいくつか紹介したい。

主要紙コメルサントは、今年上半期、中ロ間の輸出入がいずれも前年同期比20%以上増加したと伝え、経済紙RBCは専門家の寄稿として、今年6月の輸入車の7割以上が中国車だったと解説している。別のRBCの記事では、人民元決済の増加も指摘している。

欧州との経済関係が縮小する一方、ロシアにとって中国は、エネルギーの輸出先としてだけでなく、自動車や電気機器などの供給元、さらには人民元を通じた決済面でも存在感を強めていることがうかがえる。

◆「対外貿易、輸出・輸入ともに拡大――上半期、ロシアの輸出は12%増、輸入は11%増

8月10日付コメルサント(※一部要約)

  • 2026年上半期のロシアの対外貿易は、再び拡大に転じ、前年同期比4%増の3,656億ドルとなった。輸出、輸入とも増加、貿易黒字は約14%拡大した。

  • 貿易拡大の牽引役は引き続きアジアで、前年同期比5%増加し、貿易総額の74.9%を占めた。昨年減少した中国との貿易が再び大幅に増加したことも寄与した。

  • 中国からロシアへの輸出は600億ドル超、ロシアから中国への輸出は740億ドルで、いずれも前年同期比20%以上増加した。

  • 中国はロシア産原油と液化天然ガス(LNG)の輸入を増やした。背景には中東からのエネルギー供給が滞った事情もある。中国からロシアへの一部商品の輸出も回復し、自動車は5倍、電気機器は32%増、化学工業製品は26%増となった。

  • ロシアの対外貿易に占める欧州の割合は引き続き低下した。前年の4%から17.8%に縮小した。EUにとって、エネルギー供給国としてのロシアの役割は引き続き低下している。第1四半期のEUのエネルギー関連製品の輸入額に占めるロシアの割合は3.6%で、前年の約4.2%からさらに低下した。一方、欧州からの輸入が増加した背景には、EUからの医薬品の購入増加に加え、ベラルーシからの輸入拡大があると考えられる。

「ロシアの中国車――最大のリスクがもはや『供給』ではない理由」、721日、RBC Companies、国際決済サービス会社RSI GARANTのマネージングパートナー、アザト・ナスィロフ氏の寄稿(要約)

  • 2026年上半期、中国はロシア自動車市場にとって主要供給国としての地位を改めて確認した。中国からロシアへの乗用車輸出額は過去最高となる約62億4000万ドルに達した。

  • 現在、市場関係者にとって最大の課題は、もはや自動車を確保できるかどうかではない。中国からの自動車の並行輸入は、この2年間で比較的単純な取引から複雑なものへと変化し、国際決済、為替リスク、銀行のコンプライアンス、物流などへの対応が必要となっている。

  • 中国は、ロシアの自動車輸入で引き続き首位を占め、2026年6月にロシアへ輸入された新車の乗用車の70%以上が中国車だった。

  • 特に需要が高い車種には、Geely Cityray、Geely Monjaro、中国で生産されたMazda CX-5などがあり、ロシアの消費者はこれらを欧州・日本ブランドに代わる選択肢として受け入れるようになっている。

「中国人民元、A7顧客の決済の3分の1超を占める」86日付RBC要約)

  • ロシアの国際決済システム「A7」が発表した2026年上半期の実績によると、同社顧客の国際決済のうち人民元建てが36%を占め、前年同期から7ポイント増加した。

  • 同時にUAEディルハムの割合も増えており、2026年上半期には約12%に達した。

  • 中国は引き続き貿易で首位を占め、同社顧客による国際決済の約3分の1を占めている。取引の大部分はロシアへの輸入代金の支払いで、全決済の90%以上を占める。

  • なお、ロシア企業の決済に占める人民元の割合の上昇は、ロシア全体でも確認されている。ロシア中央銀行は2026年初めの金融安定報告で、対外貿易決済に占める人民元の割合がさらに拡大しており、「友好国」向け外貨取引では45%を超えていると指摘している。

続いては、これも、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。今週も「夏枯れ」が続いているようではあるが・・・。

8月18日 火曜日 ミャンマー最高指導者訪露、露大統領と会談

8月19日 水曜日 約280億ドル相当のカナダ製品に対する50%の新関税発動

8月23日 日曜日 カザフスタンで前倒し議会選挙

エクアドル大統領、一週間の訪中を終了

最後はガザ・中東情勢だが、米大統領は今や「裸の王様」に成り下がりつつあるようだ。過去6カ月で戦闘の主導権はイラン側に奪われてしまった。残るは米国の「名誉ある降伏」しかないが、それでは彼のメンツが丸潰れ。対イラン「大規模攻撃」は地域同盟国に反対され、今は経済的手段による「締め付け」再強化を模索している。

でもそれって、過去数年間トランプ政権がやって来たことと同じではないのかね?となれば、到底成功するとは思えないし、逆に、経済制裁を下手にやり過ぎれば、イランは更なる報復措置をとるだけだろう。そうこうしている内に9月第一週の「レイバーデー」週末がやって来る。その後は中間選挙が終盤を迎える・・・。

6月17日に署名された「誤解覚書」の60日間の期限が切れた17日、米大統領は電話インタビュ​ーで「イランは米国との戦争終結に‌向け『降伏の白旗』を掲げるべきだ」などと述べたそうだ。これに対し、イラン側は、「それを言うなら降伏するのは米側だろう」と足元を見ているだろうに。

「ホルムズ海峡の米領化」や「対オマーン爆撃」にも言及し始めた米大統領はもはや「末期症状」か、それとも、今後も「更なるご乱心」が続くのか。恐らく後者だろうなぁ。次は北朝鮮、その次はキューバ、そしてその次は・・・・?今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)

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トップ写真:19th National Congress Of The Communist Party Of China (CPC) – Closing Ceremony

出典:Lintao Zhang / スタッフ / GettyImages




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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