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.政治  投稿日:2026/8/23

玉木雄一郎氏の消費税・法人税一体改革国内投資のインセンティブは働くか


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【本稿のポイント】

・玉木雄一郎氏の提案する新しい法人課税は、税制論でいう仕向地主義キャッシュフロー課税とほぼ同じ形をしている。

・法人税を納めていない会社が6割を占め、最低税率15%に張り付いた多国籍企業では、国内投資を増やしても現状では税は減らない。

・消費税と法人税で47兆円規模の税収を、より狭い課税ベースから取り直す設計であり、税率を含め詰めるべき点は多い。

国民民主党代表選で玉木雄一郎氏が掲げた、消費税と法人税を一体で組み替える構想は、実現できるのか。本人の発言と公開資料に当たって検証した。発想そのものは税制論として突飛ではなく、国際的な潮流とも一部重なる。ただし制度にするには、詰めるべき点が残る。いずれも一つの問いにつながる。国内投資を増やすインセンティブをどうすれば実(Japan In-depth編集長・安倍宏行)

Japan In-depthチャンネル「玉木雄一郎 国民民主党代表選 主張大公開」:https://www.youtube.com/watch?v=nkK7wfzhp6A

■玉木氏の構想は、どんな税なのか?

消費税とほぼ同じ働きをする税を、法人税の制度で作り直すものである。玉木氏の8月17日のXポストによれば、新しい法人課税の課税ベースは「国内売上」から、「国内仕入れ」「国内給与」「国内設備投資」「国内研究開発投資」を差し引いたものだ。日本で人を雇い、給料を上げ、国内に工場を建て、国内で研究開発するほど税が軽くなる。ただし、「国内売上」や「国内投資」の具体的な定義はまだ示されていない。

この方式は、税制論でいう仕向地主義キャッシュフロー課税とほぼ同じ形だ。「どこで売れたか」を基準に課税する方式で、輸出は課税ベースに入らず、輸入した仕入れは差し引けない。オックスフォード大学ビジネス課税センターのAuerbach・Devereux・Keen・Vella論文(2017年)は、この税を「広く一律の付加価値税を導入し、賃金にかかる税を同額引き下げること」と経済的に等価だと説明している。玉木氏が消費税と法人税をセットで論じるのは、理屈の上では一貫している。ただし、この形の課税を全面導入した国は見当たらない。

玉木氏が番組で挙げたエストニアは、部分的に重なる例である。同国税関税務庁によれば、同国は利益を会社に残している間は課税せず、配当などで分配した時点で課税する。再投資に回す資金に課税しないという点では、発想が重なる。ただし課税のきっかけはあくまで利益の分配であって、売上がどこで立ったかではない。人件費を課税ベースから差し引く仕組みでもない。

■なぜ「賃上げすれば減税」が効きにくいのか?

控除とは要するに「納める税を減らすこと」で、そもそも税を納めていない会社には効かないからだ。国税庁の会社標本調査(令和5年度分)によれば、法人295万6717社のうち、赤字などで法人税を納めていない欠損法人は180万3203社。全体の61.0%にのぼる。人件費控除も国内投資控除も、この6割には当面、賃上げの動機を与えない。裏返せば、消費税は赤字でも納税義務が生じる税である。法人課税に置き換えれば、その安定性も手放すことになる。

税で賃上げを促す政策は、日本にすでにある。中小企業向け賃上げ促進税制は最大45%を税額から差し引ける制度だが、上限は法人税額の20%。納める税が小さければ控除枠は使い切れない。玉木氏は投稿で、必要なのは「租税特別措置ではなく」課税ベースの組み替えだと明記しており、この限界は認識している。ただし控除項目に「国内仕入れ」まで加われば、課税ベースは現行より大幅に狭くなる。財務省の資料によれば令和8年度予算額は消費税26兆6880億円、法人税20兆6960億円。合計47兆円規模を、より狭いベースから取り切れるのか。税率をどこに置くかは、これから詰める部分である。

■国際的な最低税率15%は、どう影響するのか?

大企業の減税は、国際的に決められた下限で止まる。財務省の資料によれば、日本も法制化したグローバル・ミニマム課税は、グループ全体の年間総収入が7.5億ユーロ(約1395億円:1ユーロ=約186円)以上の多国籍企業に、どの国でも利益の15%にあたる税を負担させる仕組みだ。日本での負担がそれを下回れば、不足分は「上乗せ課税」として徴収される。国税庁の資料によれば、日本はこの不足分を自国で取る「国内ミニマム課税」を設けており、令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。

この下限があると、玉木構想の国内投資減税は、ある範囲でしか働かない。控除を使ってなお15%を上回っている企業なら、国内投資を増やした分だけ税は軽くなる。だが、すでに15%に張り付いている企業は、追加で投資をしても不足分を取られるだけで、納める税額は変わらない。税が減らないなら、投資を促す動機も働かない。そして輸出で得た利益は課税ベースに入らないため、輸出で稼ぐ割合が大きい企業ほど、日本での税負担はもともと小さく、この状態に近づく。国内への投資を促すはずの税制が、海外で稼ぐ力の大きい企業には効きにくい。

ただし、これは大規模な多国籍企業に限った話である。国内中心の企業や中小企業には関係がない。そして、どの企業がこの状態に陥るのかは、新しい税の税率をどこに置くかで変わる。

■社会保障と地方の財源はどうなるのか?

消費税をやめれば、そこに紐づいていた財源も動く。財務省の資料のとおり、消費税法第1条第2項は、消費税の収入を「年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費」に充てると定めている。使い道が法律で指定された税である。しかも税率10%の内訳は消費税(国税)7.8%と地方消費税2.2%で、地方消費税は自治体の財源である。

玉木氏は消費税を一度リセットして新しい法人課税体系に組み込むとしているが、新しい法人課税がこれを引き受けるのなら、その税収規模には社会保障と地方財源の分も含まれる。人件費や国内投資を差し引いた後の狭いベースから、それだけの税収を得ることになる。投資や賃上げをしない企業ほど負担が重くなる設計だが、その水準をどこに置くかは、この引き継ぎ方にも左右される。

■何を詰めれば、投資は動くのか?

問われているのは、国内投資を増やすインセンティブを、どうすれば本当に働かせられるかである。玉木氏の構想はまだ試案の段階で、法案も、税率も、「国内売上」の定義もこれからだ。だからこそ、詰めるべき点ははっきりしている。

法人税を納めていない6割の企業に、どうやって誘因を届かせるのか。最低税率15%に張り付く多国籍企業に、投資を促す余地をどう残すのか。社会保障と地方の財源を引き継ぎながら、企業が耐えられる水準に税率を収められるのか。玉木氏の提案する「消費税と法人税の一体改革」が実現できるかどうかは、まさにこれからの議論である。構想を実現させるためには、この三つは避けて通れない。 

Japan In-depthチャンネル「玉木雄一郎 国民民主党代表選 主張大公開」:https://www.youtube.com/watch?v=nkK7wfzhp6A

【よくある質問(FAQ)】

Q. 仕向地主義キャッシュフロー課税とは?

A. 生産地ではなく販売先の国を基準に課税し、設備投資などの支出をその年に全額差し引ける法人課税の方式。輸出は課税されず、輸入には課税される。オックスフォード大学ビジネス課税センターの論文が理論的な整理を行っている。

Q. エストニアの法人税が「22/78」と書かれるのはなぜか?

A. 同国税関税務庁によれば、手取りで78を配るときに22を納める形になるため、この書き方をする。分配する利益に対しておよそ22%にあたる(2025年以降の税率)。

Q. グローバル・ミニマム課税の「実質ベースの所得除外額」とは?

A. 国税庁の資料によれば、給与等の費用の5%と有形固定資産等の額の5%を、上乗せ課税の対象となる所得から差し引く仕組み。実体のある事業活動の取り分とみなす趣旨で、人を雇い国内に設備を持つ企業ほど上乗せ課税は小さくなる(経過措置として初年度は9.8%と7.8%から始め、9年かけて5%へ逓減する)。

関連リンク

Japan In-depthチャンネル(YouTube)

玉木雄一郎氏「賃上げが最大の節税になる」 消費税廃止と新法人税体系の中身(Japan In-depth) 

主な参照資料

玉木雄一郎氏 SNS投稿(2026年8月17日)

Auerbach, Devereux, Keen and Vella, “Destination-based cash flow taxation”(オックスフォード大学ビジネス課税センター、2017年)

Pirlot, “Don’t blame it on WTO law”(同、2019年)

エストニア税関税務庁「Taxation of dividends」

国税庁「令和5年度分 会社標本調査結果について」

中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」

財務省「令和8年度 租税及び印紙収入、収入額調」

財務省「グローバル・ミニマム課税の概要」

国税庁「グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし」

国税庁「同(2)各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税の創設」

財務省「消費税率の引上げと使途の明確化」

トップ写真:国民民主党 玉木雄一郎衆議院議員(2026年8月21日)ⒸJapan In-depthチャンネル




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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