李在明政権を動かす「秘線」金賢志とは何者か(下)
執筆者:朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
■本稿のポイント
・9月21日、姜勲植大統領秘書室長が辞意表明。9月1日の金容範政策室長の退任に続き、大統領府の3人の室長のうち2人が事実上空席に。
・長官人事を主導したのは第1付属室長の金賢志氏と言われるが、経歴はほとんど公にされておらず、2025年9月には国政監査を前に総務秘書官から第1付属室長へ異動した。
・野党「国民の力」のパク・ジョンフン議員は2025年、キム・ミヒ元議員の選挙法違反事件の判決文をもとに、金賢志氏と「京畿東部連合」とのつながりを指摘。
韓国大統領府で9月21日、姜勲植大統領秘書室長が辞意を表明、政権中枢の空白が広がっている。朝鮮半島情勢を長年分析してきたコリア国際研究所所長の朴斗鎮氏は、長官人事失敗の背後に、李在明大統領が頼る第1付属室長・金賢志氏がいると指摘。城南市時代から続くとされる「京畿東部連合」との関係を、判決文をもとに読み解く。
◆なぜ大統領秘書室長は辞意を表明したのか?
李在明の記者会見直後に金勝源法務長官候補が自ら辞退を表明したが、この内閣改造の目玉人事失敗の責任をめぐって、青瓦台(大統領府)内で責任論が収拾のつかない状態となり、9月21日には姜勲植(カン・フンシク)大統領秘書室長が電撃的に辞意を表明するに至った。就任後1年3ヶ月の辞意表明だった。
これで韓国大統領府は、株価ETFレバレッジ問題で金容範(キム・ヨンボム)政策室長が退いたのに続き、ナンバー2の秘書室長までが辞意を明らかにしたことで、3人の室長のうち2人が事実上空席という前代未聞の状況を迎えることになった。
◆秘書室長辞任の背後に金賢志はいるのか?
しかし今回の人事を推進したのは姜勲植秘書室長ではなく第1付属室長の金賢志(キム・ヒョンジ)と言われてきた。だが李在明大統領は、大統領府を動かす最側近の金賢志室長に責任を取らせることができないので、秘書室長に責任を負わせたのだろうと噂されている。
ところが問題なのは、李在明大統領が秘線(非公式決定ライン)として依存するこの金賢志室長の経歴がいまもってベールに包まれたままだということなのである。国政監査の人事聴聞会で金賢志を召喚しようとした途端、李在明大統領は、彼女を総務秘書官から監査に応じる必要のない第1付属室長(大統領への取次係)へと移動してしまったからだ。
野党(国民の力など)からは、彼女を過去の城南市関連の開発疑惑(柏峴洞開発事業など)や政権内の人事への不当な介入(人事壟断)を行う「秘線実勢」であるという疑惑を提起している。
これまでのところ金室長については、光州(クァンジュ)のキョンシン女子高校とサンミョン女子大学に通ったことや、城南(ソンナム)地域の市民団体で活動し、「城南市民の会」を通じて、李在明(イ・ジェミョン)大統領と縁を結んだとされていることぐらいしか公にされていない。最近金室長の父親が亡くなったが、父親の死については地域の政界にも知らせなかったという。当初葬儀につらねていた金室長の名前すら削除したとの情報ももたらされている。
◆金賢志はなぜ「秘線実勢」として危険視されるのか?
こうした疑惑の中で、金賢志が危険視されているのは、単なる秘線ではなく、城南市を拠点としてきた北朝鮮地下組織「京畿東部連合」(国家転覆扇動で解散させられた統合進歩党の母体)との関係だ。
統合進歩党は解散させられる前、李在明が城南市長に立候補した際、自党の立候補者であったキム・ミヒを下ろして李在明候補で単一化(2010)を行い、李在明の市長当選に寄与したが、この時、それを背後で調整したのが金賢志と言われている。その後も金賢志とこの地下組織の関係は続いた。
李在明は城南市長の「引き継ぎ委員会委員長」にキム・ミヒを据え、キム・ミヒの夫ペク・スンホと金賢志を引き継ぎ委員会幹事として登用したのだが、このペク・スンホは京畿東部連合の中心人物で統合進歩党の事務総長をしていた人物なのだ。
◆判決文は金賢志と「京畿東部連合」の何を示したのか?
野党国民の力のパク・ジョンフン議員は昨年、金賢志と京畿東部連合、解散させられた統合進歩党との関係をキム・ミヒの選挙法違反判決文で明らかにした。キム・ミヒの選挙法違反判決文(80万ウォンの罰金判決)中に、金賢志がキム・ミヒとペク・スンホとつながっていた事実が出てきたのである。
この選挙法違反事件は、キム・ミヒが議員になるために選挙運動を行っていた食事会の場で行われたのだが、その食事会に行くように仕向けたのが金賢志だった。
2審で金賢志が証人として登場してキム・ミヒに有利な証言を行ったことで、罰金刑が80万ウォンに減刑となり、キム・ミヒは当選無効とならなかった(罰金が100万ウォンを超えると当選無効)。
こうしたことから、金賢志が京畿東部連合や統合進歩党とつながっていたことが証明されたのである。
金賢志室長は、李在明大統領の外遊にも同行し、大統領府の影の実力者として政権の業務に携わっているが、その正体があからさまにされた時、李在明政権の命運は尽きるだろうと言われている。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 韓国大統領府の「3人の室長」とは誰を指すのか?
A. 大統領を補佐する大統領府の組織のトップである、大統領秘書室長、政策室長、国家安保室長の3人を指す。第1付属室長は大統領秘書室長の下に置かれ、大統領を身近で補佐する。
Q2. 統合進歩党とはどんな政党だったのか?
A. 2011年に民主労働党などが合流して結成された韓国の左派政党。2014年12月19日、憲法裁判所が同党の目的と活動は民主的基本秩序に反するとして解散を決定し、所属国会議員は議員職を失った。
Q3. 韓国の国政監査とは何か?
A. 韓国憲法第61条に基づき、国会が毎年、行政機関などの国政全般を監査する制度。各常任委員会が所管機関を対象に行い、関係者を証人として呼ぶことができる。閣僚候補などの資質を審査する人事聴聞会とは別の制度である。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
■シリーズ・アーカイブの紹介
本連載は、朝鮮半島の政治・外交・安全保障を専門とするコリア国際研究所所長・朴斗鎮氏によるコラムです。韓国・北朝鮮の権力構造を独自の視点で読み解き、日本のメディアでは見えにくい朝鮮半島の実像に迫ります。
トップ写真)青瓦台本館で開かれた国賓歓迎式で、トルクメニスタンのセルダル・ベルディムハメドフ大統領と儀仗隊の間を歩く李在明大統領
出典) Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統

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