地雷攻撃受けても金正恩にひれ伏す李在明大統領(下)
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
本稿のポイント
- 李在明大統領の「不慮の事故」発言に、メディアならびに野党からは猛反発。
- 李大統領の北朝鮮政策の背景として、京畿東部連合との政治的関係、いわゆる「サンバンウル対北送金事件」、過去の訪朝を巡る疑惑が指摘されている。
- これら疑惑のすべてが李大統領本人の法的責任として確定したわけではなく、事実として確定した部分と政治的主張を区別して検証する必要がある。
韓国軍兵士3人が北朝鮮が埋設したとみられる地雷の爆発で負傷したにもかかわらず、李在明大統領は10月1日の「国軍の日」演説で事件を「不慮の事故」と表現し、鄭東泳統一部長官も10月7日の国会国政監査で「まだ攻撃と特定することはできない」と発言した。なぜ李在明政権は北朝鮮に対してこれほど融和的な姿勢を取るのか。本稿では、李大統領と韓国進歩派勢力との政治的関係、サンバンウルによる対北朝鮮送金事件、過去の訪朝を巡る疑惑という3つの観点から、その背景を検証する。
李大統領が北朝鮮にひれ伏す背景
韓国の李在明大統領は、自国の兵士が北朝鮮の地雷攻撃で足をふっ飛ばされても「不慮の事故」(10月1日の国軍の日の演説)と語り、統一部長官の鄭東泳は、10月7日に開かれた国会外交統一委員会の国政監査において、この北朝鮮の地雷攻撃について「現時点では地雷攻撃と特定することはできない」などと韓国軍の調査結果を否定する驚くべき発言を行った
この発言に対して野党国民の力などからは「誰のための政府なのかわからない」「弾劾に値する」といった激しい非難が起き、これまで李在明大統領批判を控えてきたメディアさえも北朝鮮を利するものとして一斉に厳しい批判の論調を出しはじめている。
北朝鮮の金与正は10月8日の談話で、「待ってました」と言わんばかりにこの鄭東泳発言を引き合いに出し、「韓国の官吏である鄭東泳も今回の“地雷爆発事件”をわが共和国の故意の攻撃に断定するのは難しいと言った」と言及し、皮肉を交えて韓国政府を嘲笑った。
地雷攻撃を受けてもミサイル発射の威嚇を受けても、李在明大統領はひたすら金正恩に忖度し、「平和」を叫び、ひれ伏しているが、なぜ李在明は金正恩に対してここまで卑屈になるのだろうか?
その背景には次のような3つの事情があると言われている。
①李在明を世に出した京畿東部連合とのつながり
李大統領の政治家としての出発は、城南市長に立候補し、当選をはたしてから始まるが、そこで注目しなければならないのが北朝鮮地下組織「京義東部連合」とのつながりだ。
李在明は、1990年代初、 韓総連(韓国大学総学生会連合)傘下の龍仁(ヨンイン)・ 城南(ソンナム)地域組織である「龍仁城南地域大学総学生会連合 (龍城総連)」の弁護士として活動していた。 2003年には「京畿東部連合」が主導した城南市立病院設立推進委員会の共同代表も務めた。
2010年の地方選挙当時、李在明が民主党候補として城南市長に出馬すると、京畿東部連合所属で民主労働党候補の「キム・ミヒ」が候補単一化を受け入れ李在明候補の当選を助けた。李在明は市長に当選後、キム・ミヒを城南市長職の引き継ぎ委員長」に任命するなどして京畿東部連合と共に城南市の市政を運営した。
李在明(市長)と京畿東部連合を中心とした統進党・韓総連勢力は、李在明が共に民主党の大統領候補として出馬(2022年)することになると大挙民主党に入党した。
李在明の「大庄洞開発事業」に主要幹部として動いた柳東珪(ユ・ドンギュ)(城南都市開発公社元企画本部長)によれば、統合進歩党・李石基(イ・ソクキ)の革命組織「RO(Revolutionary Organization)」事件(国家転覆陰謀事件)」の組織員名簿に李在明の名前があったが、検察が調査過程で消し去ったという(「大統領弾劾と体制戦争」イ・ヒチョン著、P.46)。
大統領府の「秘線」と言われている第1付属室長の金賢志はこの「京義東部連合」のメンバーだと言われており、李大統領の側近中の側近として今も人事に大きな影響を与えている。
②「サンバンウル」を通じた北朝鮮送金疑惑
韓国の下着メーカーであるサンバンウルを通じた北朝鮮送金(対北朝鮮不正送金事件)とは、「サンバンウル」が2019年に計800万ドルを北朝鮮側に不正に送金したとされる事件だ。
送金目的は、京畿道が約束していた北朝鮮支援の「スマートファーム」事業費(500万ドル)と、李在明知事(当時)の北朝鮮訪問のための費用(300万ドル)を、サンバンウルグループの金聖泰(キム・ソンテ)元会長が代わりして北朝鮮側に渡したとされている。
この事件について裁判所は、起訴された元京畿道平和副知事の李華泳やサンバンウルの金聖泰元会長に対し、事実と認定し有罪判決を下した。李華泳に関してはすでに懲役7年8カ月の実刑判決が確定し現在収監されている。
検察は、この送金が当時の京畿道知事であった李在明の訪朝への謝礼(見返り)性質のものであり、李大統領が当時承認していたとみなして第三者供賄(わいろ)などの容疑で2024年6月に起訴した。事件を巡る法的な責任や裁判は現在も続いており、関係者の控訴審などで審理が続けられている。しかし李在明大統領については、昨年6月の大統領就任後、裁判は停止された。
③2005年北朝鮮訪問時に資金提供を受けた疑惑
李在明大統領は、弁護士時代盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時の2005年に特別な許可をもらい北朝鮮(平壌)を訪問している。現在の統一部長官・鄭東泳(ジョン・ドンヨン)がその時も統一部長官をしていた。彼はブログに平壌に行った写真を掲載し、大同江、平壌空港、万景台で写した写真を公開したことがある。
この訪問に対して国民の力代表のチャン・ドンヒョク代表は、李在明が2005年に北朝鮮を訪問したことがあるが、この時何があったかはわからないが、北朝鮮に弱点を握られたのではないのかと指摘した。
この点については、城南市長時代に会計士であった実兄から李大統領が「北朝鮮から1万ドルの資金提供を受けたではないか」と追求された電話録音が公開されている。
李大統領は兄との通話で、兄から「シン・ゴンスは誰だ。統合進歩党の党員だろう」と問い詰められている。京畿東部連合幹部で統合進歩党党員だったシン・ゴンスは、外国語大龍仁キャンパス(現グローバルキャンパス)総学生会長、民主労働党青年委員長、民衆党京畿道城南市委員長、進歩党京畿道党委員長を務め、城南市長選挙時に秘書室で勤務し、今も進歩党盆唐地域委員長として活動している。
この兄の追求に対して李大統領は「うるさいこのXXめ」と口汚く罵倒して口を塞ごうとしたが、兄はさらにナヌム(分かち合い)企画(城南市選定のナヌム環境を運営)とは何か?と問いただし、お前(李在明)!工作金渡しただろうと追求した。当時2013年に、このナヌム環境には水原地察の捜査が入っていた。この企業の資金が統合進歩党の李石基に流れていた疑いがあったからだ。ナヌム環境には東部連合の幹部だった人たちが働いていた。
*「ナヌム環境」の代表取締役は、ハン・ヨンジン元京畿東部連合共同議長が務め、民労党元城南中原地区党委員長で、やはり京畿東部連合の核心人物であるチョン・ヒョンジュも経営に関与していた。
李在明の兄は会計士をしていたためにこの地域の事情に詳しかった。それで追求したのだ。この会話では、記者たちを呼んで明らかにするぞとまで言い寄っている。李在明がまた「うるさいこのXXめ」と怒鳴り遮切ったが、兄は続けて「北朝鮮から1万ドル受け取ったら工作資金だ。1万ドルは1200万ウォンだ。拘束されるぞ」と言い返している。
今韓国では、李大統領の対北朝鮮対応と関係して特にこの通話で追求された疑惑に注目が集まっている。この問題がいまもって解明されていないからだ。これが事実であれば、李大統領は北朝鮮工作員と同じ役割を果たしていたことになるからだ。
李在明大統領の支持率が低下を続けているなかで、今後この疑惑が新たな焦点として浮上する可能性は十分に考えられる。
【よくある質問FAQ】
Q1.今回のDMZ地雷爆発は北朝鮮によるものなのか?
A.韓国軍は北朝鮮が埋設した地雷による爆発との見方を示している。一方、北朝鮮側は責任を否定しており、韓国政府は「北朝鮮による意図的な攻撃」とまで断定することには慎重な姿勢を示している。
Q2.李在明大統領は地雷事件を「北朝鮮による攻撃」と認めていないのか?
A.李大統領は10月1日の国軍の日演説で、負傷した将兵について「不慮の事故」と表現し、北朝鮮を名指ししなかった。
Q3.鄭東泳統一部長官は何と発言したのか?
A.10月7日の国会国政監査で、地雷爆発について「まだ攻撃と特定することはできない」と発言した。この発言を金与正氏が翌8日の談話で取り上げ、北朝鮮側の責任否定に利用した。
Q4.サンバンウルの800万ドル送金は事実なのか?
A.サンバンウル側から北朝鮮への800万ドル送金をめぐっては、李華泳元京畿道平和副知事が有罪となり、2025年6月に大法院が懲役7年8カ月を確定させた。下級審・大法院は、送金の一部が京畿道のスマートファーム事業費や当時の知事だった李在明氏の訪朝費用に関係すると認定した。
Q5.李在明大統領自身が北朝鮮への送金を指示したことは確定しているのか?
A.現時点で、李在明氏本人についてこの事件の刑事責任が確定したわけではない。李氏は第三者供賄などで起訴されているが、大統領就任後、関連裁判は停止されている。したがって、本人の刑事責任については「疑惑・公判中の問題」として扱う必要がある。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:朝鮮半島非武装地帯(DMZ)にて文大統領(当時)と会談する金正恩総書記と金与正第一副部長(当時)(2018年4月27日)
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