ベネズエラ石油生産、本格回復なるか-米との協定もカギ
執筆:山崎真二(元時事通信社外信部長)
【本稿のポイント】
・ベネズエラの石油生産が回復ししつあり、米石油大手などが事業拡大へ
・本格的回復になるか不透明で、注目の米との石油協定には多くの疑問
・ベネズエラ暫定政権と米との取引説も
ベネズエラでは、米国の軍事介入でマドゥロ政権が崩壊してからほぼ9カ月、ロドリゲス暫定政権下で石油生産が緩やかに回復しつつあり、シェブロンなど外国企業も事業拡大に動いている。一方、米国との間で合意したとされる石油開発協定には多くの疑問が指摘され、本格回復の行方は不透明だ。元時事通信社外信部長の山崎真二氏が現状と課題を読み解く。
◆日量120万バレルは維持
米国がベネズエラに軍事介入し、当時のマドゥロ政権を崩壊させてからほぼ9カ月。後を継いだロドリゲス暫定政権下で石油生産が回復しつつあるとの情報がこのところ相次ぐ。石油輸出国機構 (OPEC)の最新月報によれば、ベネズエラ政府は9月の同国の原油生産量が前月より若干増えて日量120万6千バレルに達したと報告した。ベネズエラの主要紙は先に7月、8月、9月の原油生産量がおおむね120万バレルの水準を維持しおり、昨年同期と比べ日量12万バレル増えたと報じている。現地の石油アナリストは「1990年代末のピーク時の日量300万バレル超にはまだはるかに及ばないもものの、今年1月に日量90万バレル弱に落ち込んだことからすれば、最近は緩やかながら回復しつつある」と強調する。この背景にはベネズエラ政府が外資誘致を目指す炭化水素法を改正したことや米国の対ベネズエラ制裁の緩和などがあることは疑いない。ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)のオブレゴン総裁は今年末までに生産量が日量130万バレルとなり、2027年末までには日量150万バレル近くに達すると意気込む。
◆本格回復につながるかは不透明
オブレゴン総裁が楽観的見通しを示すのは米石油大手シェブロンなど外国企業数社が最近、ベネズエラでの事業拡大や新規投資に乗り出したことと関係があるだろう。PDVSAとの合弁事業を手掛けるシェブロンは今後5年間で70億ドル以上を投資し、生産量を日量60万バレルへと倍以上に増やす事業拡大計画を進めているとしており、ベネズエラで稼働する石油掘削リグの数を2倍以上に増やす方針も明らかにした。また、約20年前にベネズエラから撤退したもう一つの米石油大手エクソンモービルはベネズエラ再進出に慎重な姿勢を示していたが、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道によると、ベネズエラの油田開発への投資でPDVSAとの間で暫定的な合意に近づいているという。また、イタリアのエネルギー開発大手のエニは9月初め、PDVSAと新たな油田開発契約を結んだ。だが、多くの石油アナリストの間ではベネズエラの石油産業は過去20年以上にわたり投資不足に陥り、インフラの老朽化が進んでいるため立て直しには多額の投資と多くの時間を要するとの見方が有力。「石油生産が少し回復したからといってそれが石油産業全体の本格的回復につながるかは分からない」(米国のベネズエラ問題専門家)といった声が多く聞かれる。
◆「世界史上最大の石油取引」?
ベネズエラの石油生産が今後、本格的に回復するか占う上で注目されるのは先ごろ、米国との間で合意したとされる石油開発協定。ホワイトハウスのファクトシートによれば、ベネズエラ暫定政権は同国の民間石油会社「ノース・アメリカン・ブルー・エナジー・パートナーズ」(NABEP)に対し確認埋蔵量合計650億バレルに上る計17の油田について100年間の開発権を付与、米国防総省はNABEPの親会社の株式35%を無償で取得、国務省はNABEPによって生産される石油生産の20%を生産原価で購入する権利を持ち、残りの80%についても優先的購入権を有するというのが協定の主な内容。しかも、NABEPの取締役の過半数は米国人とし、米政府が選任を拒否することができるとしている。簡単に言えば米政府がベネズエラの民間企業をコントロールして100年間にわたりベネズエラの石油生産の大幅権益を確保するというわけだ。650億バレルといえばベネズエラ全体の確認石油埋蔵量の2割に相当する。トランプ大統領がこの協定について「世界史上最大の石油取引」と胸を張ったのも当然だろう。
◆ベネズエラ国内では多くの反対
だが、この石油協定については多くの疑問や問題点が指摘されており、その実現性には否定的見方も多い。肝心の開発期間について米政府は100年としているのに対しベネズエラ側は25年と主張。NABEPが1000億ドルを投資するとされているが、同社にそれだけの資本力と技術力があるか疑う向きもある。加えてNABEPを率いるベネズエラ人のベタンコート氏 は以前、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがかけられた人物である。ベネズエラ国内でも協定反対の声が強い。「透明性に欠ける上、国の資源を他国に譲り渡す不当な取引」「ロドリゲス暫定政権にこれほど重要な協定を結ぶ権限があるのか」(いずれもベネズエラ有力紙「エル・ナショナル」)といった批判の声が飛び交う。この協定をめぐっては「権力の座にしがみつきたいロドリゲス氏とベネズエラの石油権益確保目指すトランプ政権との「ディールの産物」とのささやきも。ロドリゲス暫定政権は米国の後押しで野党勢力と国内の民主化に向け交渉中だが、民主的選挙実施の日程をいつまでたっても示さないのはこうした事情が絡んでいるとのうわさも流れている。(了)
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「OPEC(石油輸出国機構)」とはどのような組織ですか?
A:主要な産油国が加盟し、原油の生産量や価格の安定について協調を図る国際組織です。
Q2:「PDVSA」とはどのような企業ですか?
A:ベネズエラの国営石油会社です。
Q3:「確認埋蔵量」とはどのような意味ですか?
A:現在の技術と経済条件のもとで、商業的に採掘できると確認されている石油の量のことです。
Q4:「ファクトシート」とはどのような文書ですか?
A:政府などが、政策や合意の要点を簡潔にまとめて公表する説明資料のことです。
(リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:Secretary Wright Visits Caracas To Close Biggest Oil Agreement With Venezuela
出典:Jesus Vargas / 特派員 / GettyImages
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、




























