[宮家邦彦]【ドイツが中東に武器供与決断】宮家邦彦の外交・安保カレンダー(9月1-7日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週の原稿は羽田空港で書いている。これからロンドン経由で英国のとある町に向かう。詳しい内容は書けないが、対テロ対策の最新手法に関する学習を兼ね、某所で本格的対テロ実地訓練を受ける。それにしても、羽田発とは便利になったものだ。
空港のラウンジでテレビを見ていたら、何とドイツが中東に武器供与というニュースが飛び込んできた。イラク北部で「ISIS改めイスラム国」と対峙するクルドの軍事組織ペシュメルガの部隊にドイツ製武器を大量に供与するのだそうだ。
メルケル首相ら主要閣僚が決断したらしく、国防相は「状況は極めて危機的」と、外相は「結果は欧州とドイツにとっても計り知れない」などと、それぞれ説明したそうだ。さすがはメルケル首相、ISISとオバマ政権の本質を突く政治決断ではないか。
提供する武器は対戦車ロケット砲や小型自動小銃、機関銃など総額7千万ユーロ(約96億円)相当らしい。さて、日本だったら何が出来るのか。直ちに考えたのは日本の「武器輸出三原則改め防衛装備品移転三原則」の適用の可能性だった。
新三原則は防衛装備品移転禁止の対象として、①国際約束義務違反の場合、②安保理決議義務違反の場合、又は③紛争当事国に対する移転である場合の三つを挙げている。されば、日本は「紛争当事者」であるクルドには移転などできないのか。
だが、この新原則をよく読むと、この「紛争当事国」とは「武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国をいう」と定義されている。
おいおい、日本もその気になればドイツと同じ措置を取ることが出来るということなのか。ここはもう少し勉強してみる必要がありそうだ。勿論、ドイツ国内でも反対論が少なくないようで、武器を使うクルド人部隊の訓練は原則ドイツ国内で行うそうだ。
「平和を回復する」ために「紛争当事者」に「武器を供与する」というこのメルケルの大英断を日本の空想的平和主義者たちはどう評価するのか。「それでも武器輸出は駄目だ」というのだろうか。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
http://www.canon-igs.org/blog/
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