[相川梨絵]【中国経済外交、バヌアツでも】
相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)
先日、各国を回っている中国海軍の病院船「アークピース」がバヌアツへ初めてやってきました。船内は、8つの手術室、300のベッド、CT、レントゲン、ICUまで完備しています。立派な病院です。しかも、診察、診療はすべて無料なので、多くのバヌアツ人が訪れました。初日だけでも900人を超えました。
手術、入院も可能で、この船に運ばれ、出産をしたバヌアツ人ママさんもいたそうです。医療が遅れているバヌアツにとっては、まさに、宝の船。あまりの人気に最後は薬の在庫がなくなってしまったそうです。
私も興味があり、行ってみました。オープン前なのに、既に多くのバヌアツ人で列ができています。これは、診察してもらうのは大変だとあきらめて、見学だけさせてもらうことにしました。
しかし、この取材許可申請が、ドキドキ。なにせ相手は中国軍。日本のジャーナリストです、なんて言ったら、スパイと思われて立ち入り禁止になってしまかもしれません。バヌアツにきて一番スリリングな時間でした。長いこと待たされて、決して中国人医師や海軍にインタビューをしないという条件で、見学と写真撮影の許可が降りました。
中に入ってみると、病院そのもの。入ってすぐに、採血のブースがありました。重病の人はもちろん、この船では、健康な人も無料で血液検査、肺の検査、心電図をしてくれます。上の階は、各科に分かれています。内科、外科、歯医者、眼科、耳鼻科、などなど。眼科では眼鏡までつくってくれるようです。眼鏡も無料なのでしょうか?バヌアツで歯の治療はとても高いので、歯医者はとても助かります。この船は本当にバヌアツ人たちに喜ばれていました。
今、中国は積極的に太平洋諸国を支援しています。“一つの中国問題”(注1)で各国が台湾側に回らないようにする為です。バヌアツに関しては、ナマコなどの漁業資源、湾岸などの立ち寄り権限、農作物などにも興味を持っているようです。首相が代わり新体制になってから、中国が急接近しています。8月には、ナツマン首相と中国の習近平国家主席の直接会談が実現。さらに、現在、二転三転している、国の玄関である国際空港の再建プロジェクトにも、習主席が直々にナツマン大統領に中国が手助けする用意ができているとコメントしました。
今回、改めて中国はアピールが上手だなと思いました。この件に限らず、中国の支援の仕方は、大胆で目立ちます。日本も同じようにこの国に対して、大きな支援をしています。例えば、来年着工予定の国際埠頭の建設。今回の病院船は、一週間という短い滞在にも関わらず、停泊の優先権を持っている観光船が2日間寄港したため、まるまる2日、湾で待機しなければならないという事態がおきました。国際埠頭が一つしかないからです。
同じような事態がコンテナ船でも起きています。新埠頭の建設によって、国の経済を支える物流がスムーズになります。もう一つ、今年、ポートヴィ ラ の 中 央 病 院 を 1 4 億 円 の 無 償 支 援 で 設 備 の 整 っ た 立 派 な 病 院 に 再建しました。
日本の事業も、もちろんバヌアツの人に大変喜ばれています。しかし、個人的には、その後のフォローが弱い気がします。メンテナンスしかり、宣伝しかり。
今夏、安倍首相がオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアを訪問しましたが、病院、港の2大プロジェクトが進行中の今だからこそ、バヌアツにも立ち寄ってほしかったです。
病院のオープニングセレモニーに日本のトップ自ら駆けつけたとしたら、大きなアピールになったことでしょう。世界中で支援活動を積極的にし、評価も高い日本、もっとしたたかに外交に生かすべきだと思います。
注1)
中 国 は 一 つ し か な く 、 台 湾 は 中 国 の 一 部 で 全 中 国 を 代 表 す る 合 法 的 政府であるとの立場を中華人民共和国政府は取っているが、日本は台湾(中華民国)と民間レベルで緊密な関係を維持している。
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