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.経済  投稿日:2014/10/22

[田村秀男]【「増税バカの壁」を突破せよ】~目先の財源確保の為には増税しかないという財務官僚、政治家、御用経済学者、メディア~


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)「田村秀男の“経済が告げる”」

執筆記事プロフィール

 

安倍晋三首相は来年10月に予定している消費税率再引き上げにかなり慎重な考え方のようだが、今年4月の増税による惨状をみると、増税を見送るのが当然だ。にもかかわらず、自民、公明両党内では増税派が占めるし、野党の民主党に至っては、自公を抱きこんで、デフレ下の増税を仕組んだくせに「アベノミクスが失敗したから、増税できない」と責任転嫁に努める。これら政治家に共通するのは、国全体の経済を担っている現役世代がいかに消費税増税で痛めつけられているかについての認識の欠如である。かれらは、当面の予算で社会保障増加分の収入を増税によって確保してばらまくことしか考えない。

いきなりだが、グラフを見よう。物価の変動分を加味した日米の実質賃金の指数を、リーマン・ショックが起きた2008年9月を100として追っている。実質賃金とは勤労者が消費したあと財布に残る所得のことである。「リーマン」を起点にしたのは、金融バブル崩壊後の実質賃金は長期下落傾向にあるという見方が有力なためで、事実、1930年代の大恐慌期の米国はそうだった。実際にはどうか。

〈グラフ:日米実質賃金〉

 

米国の場合、リーマン後実質賃金は急落したが、2010年初めに底を打ち、その後はよたよたしながらも、着実に上昇し続けている。力強さはないが、12年初めにはリーマン当時の水準を上回った。連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策は物価下落の慢性化を防ぎ、緩慢ではあるが、雇用情勢の回復に寄与し、物価上昇率を上回る賃上げ率を実現した。「大恐慌」の再来を阻んだと言ってよい。

対照的に、日本は10年前半に少し回復したが、リーマン当時の水準を下回ったまま、緩やかな下落基調が続いたあと、13年後半から下落速度が早くなり、14年4月の消費税増税後、下落が加速した。リーマン後、日銀は量的緩和政策をとらず、円高・デフレ容認を通したために、実質賃金水準は停滞し続けた。12年12月に発足した第2次安倍晋三内閣がアベノミクスを打ち出し、日銀は2%のインフレ目標を導入して、4月からの異次元金融緩和政策によって円安に誘導して、物価上昇率を1%台に押し上げた。ところが、名目賃金は上がらないために、実質賃金が下がる。それに消費税率引き上げによって、物価上昇率は一挙に3%台半ばに押し上げられたために、実質賃金が急落して現在に至る。米国と比較すれば、日本の金融、財政両面の政策の誤りが実質賃金下落をもたらしたと断じるしかない。

本グラフにはないが、期間を1990年代初めの日本の資産バブル崩壊後までさかのぼってみると、実質賃金は94年初めに反転し始めて以来、回復基調が続いていたが、97年4月の消費税増税で急落したあと、低落傾向が定着した。下げ止まって少し反転しても、長続きせずに再び下落し、97年の消費税前のピーク時に比べると、現在の実質賃金水準は10数%も低い。今回の消費税増税と言い、消費税増税が実質賃金を押し下げる最大のきっかけであると同時に、下落基調を定着させる元凶であることは、明らかだ。

それにしても、日本はなぜ、こうも自らを破壊する政策を繰り返すのか。97年増税以来の慢性デフレや、実質賃金低落基調の原因についての徹底的な検証が行われない。間違った政策の責任をだれもとらないばかりか、当事者は知らぬふりをして、また同じ増税を推奨する。要するに、目先の財源確保のためには、増税しかない、という「バカの壁」が財務官僚、政治家、さらに御用経済学者、メディアに蔓延しているから、増税以外の方法に目を向けようとしない。

安倍首相はその点、脱デフレと経済成長を最重視し、消費税増税による景気破壊を懸念しているようだ。首相が10%への税率引き上げを見送ろうとすれば、バカの壁が阻止しようと一斉に動くだろう。安倍首相がそれでも、林立する壁を突破して見せるか、それとも、屈してしまうのか。有権者、ことに、増税に押しつぶされてきた現役世代がもっともっと声を上げないと、バカの壁は首相を追い詰めるだろう。

 

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