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.国際  投稿日:2014/12/21

[Japan In-depth編集部]【被災地と海外を結びつける試み】~「音読」で英語力アップ、震災の記憶世界に発信~ 日本外国特派員協会 朝会


Japan In-depth 編集部(Kiso)

 

11月のFCCJ(外国特派員協会)の朝会は、マーサージャパン株式会社シニアフェロー、株式会社CORESCO 代表取締役の古森剛氏を招聘した。古森氏は、東日本大震災発生以来、被災地・岩手県に通い続け、国際交流を通じた中長期的な経済復興のあり方を第一線で模策し続けている。

古森氏がはじめて被災地・岩手県は陸前高田市を訪れたのは、震災から6ヶ月後の9月。それ以降は、計65回も被災地を訪れているとのことで、自らの実家へ帰省する回数よりもかなり多いと冗談交じりに話した。

彼の転機は、陸前高田を2回目に訪れた時。復興が進まず、経済的にも疲弊し、被災者の自殺も多発するなど社会的にも暗くなってきている現状を見て、「英語での国際交流」という復興支援の在り方を発案したという。

現状被災地で行われるボランティアは、持続性という面でいくつか問題を抱えている。持続的でかつ、被災地を盛り上げていけるようにする支援の形がまさに「英語」なのだ。個人(地方の人であれば尚更)が県外や海外の誰かと関係を築いていくために、英語は一番身近なメディアになりうると古森氏は語る。

被災地に足りない「努力」する機会。場所を作り出し、海外の人や文化と触れる機会をつくれるようにする、また、中長期で個人レベルでもコネクションをもてるようにする、というのが古森氏の見通すビジョンだ。

古森氏の英語教育メソッドのベースは「音読」。大きな声でテキストを読むことを基本としていて、難しい、LとRの発音の違いやthの発音の仕方など、中高生の難問でもあるところを積極的に取り上げているという。その音読会で特徴的な勉強法を古森氏は「忍者のグラスホッピング(草とび)」と呼んでいる。

高く飛ぶ(英語力を伸ばす)には、まず基本となる語彙を英文記事の音読で増やすことが必要であると古森氏。「忍者の草とび」とは、忍者の身体トレーニング法で、「成長の早い草の種(一説には麻)」を播き、芽が伸び始めたらその上をジャンプして飛び越える、これを毎日繰り返すことで、忍者は跳躍力を鍛えた、と言われている。

具体的には英字新聞から記事を選び、その記事を音読する。わからない単語は調べる。また音読し、わからない単語を調べる。わからない単語がなくなるまで音読する。次の日は、前日に音読した記事を再度音読して、わからない単語がないことを確認し、それから新しい記事の音読にとりかかる。こういう地道なトレーニングを3カ月、6カ月継続していくと、想像以上の語彙が身に付いているというのだ。

音読会の展開する授業形態は基本的に、マンツーマンの授業で、教材も、「シンデレラ」の本や、「カーペンターズ」の曲等、人それぞれになっている。しかし、一方で現状音読会の参加者は、数千人住む街で55人(男性12人、43人)に止まるなど、道半ばとなっている。

そこで古森氏は、被災地の英語によるコミュニケーション力向上と、情報発信活動の運営母体として、「一般社団法人はなそう基金」を設立した。はなそう基金は、東日本大震災に起因する様々な出来事を世界に伝え、語り継ぐことで、多大な犠牲からの学びが一過性のものに終わらないようにすること。また、被災地の人々と日本国内の他地域、および海外各地域の人々との絆を醸成することにより、復興につながる人的基盤づくりを促進することを目指している。

すでに、“Let’s Talk(はなそう)” Ambassador Program として、音読会参加者である陸前高田市の中学1年生熊谷悠花さんが、バルセロナへ訪問している。被災地支援活動などでつながりのあった、バルセロナの人々との文通に興味を持った彼女は、1年以上文通を続ける中で、バルセロナ訪問が実現し、現地では、ホームステイやスピーチ大会などを通し、異文化交流したという。

また、陸前高田で種苗店を営む佐藤貞一さんもそのひとりだ。震災後店舗を含め、全てを失った佐藤氏。自らの津波の経験と、その後の店舗の再建、震災後陸前高田の地理や歴史から後世に伝えるべき知識を書き連ねた本、「The Seed of Hope in the Heart」は2012年の初版から、現在は第4版になっている。また、彼は中国語の学習もはじめ、著作の中国語の翻訳にチャレンジしている。

本プロジェクトにおいて、古森氏は、2020年をひとつの目処に掲げる。東京オリンピックにおいて、被災地へ外国の旅行客を迎え入れ、英語を使用した異文化交流と被災体験・被害を伝えていくのだ。

東北と、海外を結びつけ、東北を盛り上げていく。この活動を続けるためには、ロジックよりもフィジカルが必要だと古森氏は締めくくった。音読会の質を保ち続け、変化のステップを踏むために、持続的なフィジカルが必要なのだ。

今後被災地では、ハードだけではなく、より一層ソフト面の復興支援も需要とともに必要になってくる。その中での英語の習得は、参加学生の将来の道の幅を広げる上でも、地方から海外へ発信し外国人を迎え入れる上でも、重要になってくるのは当然だ。古森氏のプロジェクトは、日本の抱える諸問題でもある東京一極集中の打破や、地方経済の活性化を行う上でのヒントになり得るかもしれない。

 

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