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IT/メディア  投稿日:2013/12/26

[蟹瀬誠一]仮想通貨“Bitcoin”の産みの親サトシ・ナカモトとは誰?〜仮想通貨は電子決済時代にふさわしい政府に支配されない“新国際通貨”となるか


gazou247

蟹瀬誠一(国際ジャーナリスト/明治大学国際日本学部教授)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

こいつは一体何者だ。

そう思える得体の知れない人物が時々世の中に登場する。「サトシ・ナカモト」も間違いなくそのひとりだろう。Bitcoinという仮想通貨の産みの親として世界的に知られるようになったが、未だにその姿は謎のベールに包まれたままなのだ。年齢は40歳、日本在住だとされるが、その情報も疑わしく個人ではなく専門性の高い知識・技術を有する集団だという説もある。しかも2011年春に「別件に移る」と言い残してインターネット上から忽然と姿を消してしまったから始末が悪い。

Bitcoinは、2009年に「サトシ・ナカモト」と名乗る人物が通信規約とプログラムをインターネット上に公開したことから始まった仮想デジタル通貨。政府や中央銀行の規制を一切受けない無国籍の通貨で、金融機関の決済網を経由せずに手数料なしで世界中に送金できてしまう。流通する総量はプログラムで2100万個決められているので「有限」という点では金(ゴールド)に近い。「マイニング(採掘)」と呼ばれる暗号解読によってインターネット上で入手することができる。現物のドルとの交換できるサイトを通じて米国では急拡大し、10万ドルもする電気自動車の支払いにBitcoinが使われたことで話題になった。

当初1Bitcoinの価値は1ドル以下だった。それが徐々に上昇し、2013年10月に中国の検索大手,百度(バイドゥ)が一部サービスの決済手段としてBitconを受け入れると発表した直後から急騰。一時は1200ドルを突破する場面さえあった。いかにも自国の通貨の価値を信じない中国人らしい。慌てた中国当局がBitcoinを使ったオペレーションを禁じたため今度は一気に600ドルに急落。それでも人気はまだまだ底堅いようで米国を中心に関連ベンチャーが次々登場している。

問題はこの仮想通貨をどう評価するかだ。世界的な金融緩和によるバブルか、それとも電子決済時代にふさわしい政府に支配されない“新国際通貨”となるのか。グリーンスパン前FRB議長は「バブルだ」と一蹴している。「通貨としての本質的価値が備わっていない」というのがその理由だ。電子的なプログラムコードでしかないものを通貨のように取り扱うのは間違っていると指摘する専門家もおり、Bitcoinを「愚か者の金」とこきおろしている。無国籍で匿名性が高いため違法な取引にも利用されやすいのも問題だろう。すでにBitcoinの支払いを受け入れる麻薬売買サイトが摘発されている。

さらに、サイバー犯罪の危険もある。全米最大のBitcoin交換所のサーバーに何者かが侵入し25万ドル相当の仮想コインを奪うという事件が起きている。しかし意外な事に、米司法省はBitcoinの適法性を認め、議会での証言でも好意的な意見が目立っている。仮想デジタル通貨には「国際商取引をさらに円滑にする可能性がある」というのだ。

考えてみれば現実の通貨だって違法取引に使われているしサイバー攻撃の危険にも晒されている。それに、電子決済が広がれば広がるほど手数料ゼロで瞬時に取引できる仮想デジタル通貨の普及が進む可能性は否定できない。そもそも「人々が通貨だと信じれば通貨になる」というのが通貨の特徴である。無能な政府や政治家の誤った政策に左右される現実通貨よりも、供給量が一定でマーケットの力で価値が決定されるBitcoinの方が国際商取引には合理的だ。Bitcoinの最大の障壁はたぶん政治になるだろう。

ところで張本人の「サトシ・ナカモト」は何処へ行ってしまったのか。諸説あるがネット上で有力候補とされている人物がいる。まず、Bitcoinと類似したデジタル仮想通貨「ビットゴールド」の創設に携わったジョージ・ワシントン大学元経済学教授のニコラス・サボ氏。ナカモトの論文にサボ氏だけが引用されておらず、同氏がBitcoinにまったく反応を示していないのが理由だそうだ。もうひとりは、京都大学数理解析研究所教授の望月新一氏。数学会で世紀の難問といわれている「abc仮説」の証明をインターネット上で発表した人物で、米国での生活が長い。非営利組織ビットコイン・ファンデーションを率いるギャビン・アンドレセンも有力候補だという。

さて、この謎はいつ解かれるのか。

 

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