[Japan In-depth 編集部]【ジェンダーにとらわれない多様な生き方】〜セクシュアル・マイノリティについて知ろう〜
Japan In-depth 編集部 (Mika)
2012年に行われた電通総研の調査によると、日本人の20人に1人がセクシュアル・マイノリティであるといわれる。とはいえ、セクシュアル・マイノリティについて国民の認識は決して高いとはいえない。今年に入り渋谷区で同性パートナー条例が成立するなど前進が見られる中、セクシュアル・マイノリティの人々を守る法整備は進まず、社会で生きづらさを抱えている人々は多い。性においてマジョリティと異なることで、当事者たちは不当な扱いを受けるケースが多く、学校や職場などでいじめや差別の対象となってしまうという社会問題につながっている。何よりも人々の知識の欠如や誤解などが差別を引き起こす要因となっていることは明らかだ。そんな中、9月17日、社会で生きづらさを抱える女性の支援を行っているNPO団体(注1)による、セクシュアル・マイノリティについての知識を共有するセミナーが開催された。
長年にわたって当事者たちのサポートを行っている原ミナ汰氏(NPO法人 共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク 代表理事)を招き、体験を元に、性の多様性について正しい知識や現在の潮流を聞いた。
まず、性の多様性を理解する為には4つの概念があるという。それは:
・身体の性 生物学的にオスかメスか、身体の特徴によりある程度客観的な判断による概念
・性自認 自分は男である、女であるといった主観的概念
・性表現 見ため、男らしさ、女らしさの表現を判断するのは他者であることから社会的性別といえる
・性志向 恋愛感情や性欲がどの性別に向いているか
当事者たちが直面する社会のハードルは、家庭の次にまず学校にある。「文科省でも通達が出ている。学校の中で性同一障害の子供たちや、性的マイノリティの子供たちに対してきちんと配慮しましょう、というところまではいっているが、ではどう配慮すればいいのかというと、まだなかなか細かいところまでいっていない」と原氏はその課題の難しさを指摘した。そして社会人になると今度は職場での知識や理解の欠如による社会的偏見によって当事者たちは「社会的居場所」を失うリスクを負うという。
原氏自身も幼い頃から女という性別に違和感を持ち、性自認でいうと自分は「どうやら男の子ではないか」と思っていた。幼稚園に入ると自身の性的志向を自覚するようになり、年上の女の子に憧れるなど、「異性」として女性をみるようになったという。しかし、10代前半になり、自分を「わたし」とも言えず、「僕」や「おれ」にも違和感が生まれ始め、自身が抱く性別違和が原因となって女子トイレに入りづらくなり、尿意がなくなった結果、腎機能や肝機能を壊してしまった。
ついに、中学2年後半から不登校、ひきこもりとなり、「自分史における暗黒時代」に突入したという。そして10代後半で回復に向かう中、思わぬ 「アウティング(注2)」被害にあってしまう。夏季合宿で好意を抱いていた女子に告白をしたことが寮内で噂となり院長にまで知られ、「レズは危険」とレッテルを貼られた上、追い出されてしまった。気持ちは「異性」なのに、他者からは「同性愛者」と見られているとわかり、衝撃を受けたと語った。よくある誤解の一例が、「同性愛者は危険」という偏見だ。セクシュアル・マイノリティは性的加害者に仕立て上げられるケースが少なくないという。
また原氏が学生だったころ、同性愛に関する文献が様々出版されており、中には同性愛は「性被害」に合ったトラウマから性的指向が変わるという学者や医者などによる学説も発表された。今はだいぶ知識も進歩したが、これもまた誤解を招いた一つの原因だろう。
不都合なことに、原氏は自身が6歳の時に近所で性被害にあっていた為、当時その学説を読んだ時は、それが原因で自身の性的指向が変わってしまったのか、と考えたそうだ。しかし考え直してみると2、3歳の頃から性別違和感があったことから、やはりそれは事実無根であると再認識した。それでもしばらくは大きな疑問として残っていたという。
原氏はアウティングから受けた衝撃から、20代前半より女性を避けるようになり、性指向や性別の話は極力避けたという。八方塞がりになり悩んでいた原氏は「子供を産めば女性になれるかな?」と思い、25歳の時に男性友達との間に子を授かり、出産した。授乳中はホルモンの影響から女性に近づく体験をしたが、断乳後の身体は子を授かる前の元のものに戻り、性別感覚も以前の様に戻った。そして、その時初めて何かが吹っ切れたかのように原氏は自身のセクシュアリティを自然と受け入れられるようになったと語った。
日本におけるセクシュアル・マイノリティが直面している困難の解決のために必要なことは、
1)当事者たちが安心してカミングアウトできる場を増やすこと(学校、職場、家庭、医療現場などにおいて)
2)社会環境の整備(見えなくても必ずいる、という社会的前提意識)
3)カミングアウトした人を守る「調整役」の育成(教育や研修の深化)
4)公的機関が動く根拠となる法律の整備
正しい知識と教育を全国的に浸透させるにはやはり公的機関の援助は必須だ。しかし現状は、「いま公的機関は動こうと思っても法律がないため予算が取れない」と原氏は指摘し、法律の現状に対し歯痒さを露わにした。
セクシュアル・マイノリティの当事者たちは、未知のことに深く悩みながらも、実体験を重ね、社会に対し情報を発信し始めている。マジョリティ社会が性の多様性とジェンダー構造の正しい知識を持てば、マイノリティと共存する社会の実現に一歩近づくのではないか。人と人がお互いに尊敬しあい、ともに助け合う、差別や偏見のない社会。私たちが目指す未来はそうあってほしいと思う。
注1)ISSHOアカデミー【第8回】ジェンダーにとらわれない多様な生き方〜セクシャルマイノリティについて知ろう〜
*ISSHOアカデミー http://www.isshojp.org/
注2)アウティング( Outing)
セクシュアル・マイノリティいわゆるLGBTIの人たちに対し、本人の了解無しに彼らの性的指向や性自認を暴露すること。
*原ミナ汰氏が代表理事を務めるNPO法人「共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」(http://www.kyouseinet.org/)
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