[為末大]「成功できる」という本を読んだ人の人生の成功率がさほど上がらないのはなぜだろう?〜「成功体験」に縛られた僕を「揺さぶり」と「遊び」が解放した
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
◆なぜ成功は再現しにくいのか◆
「成功できる」という本を読んだ人の人生の成功率がさほど上がらないのはなぜだろうか。また、社会的に成功した人が「成功本」を読む割合が高い訳でもない理由はなんなのだろうか。アスリートが一度成功して、二度目を成功させる事が難しいのはなぜなのか。
一言で言えば、成功という事例の要因を振り返る時、人は「本質ではないもの」を理由だと思う、もしくは「本質は形に現れにくいから」だと思う。だから、成功の要因であると語られているものを真似したり、自分で繰り返しても、それが効かない。
成功体験は大事だけれど、一旦成功すると今度はそれが毒になる。人は成功の要因を、自分が意識的にやった事に還元する癖がある。そうして見つけた“成功の法則”を信じて次の成功に向かう。けれど、今度はうまくいかない。それは成功要因ではないから。にも関わらずしがみついてしまう。
「昨日の成功」は、昨日の自分以外の環境と昨日の自分で成り立つ。けれど、今日になればもう環境も、自分の体すら変わっている。ある条件下でしか通用しない法則を、条件が変わったのに繰り返してしまえば当然うまくいかない。
成功に僕も縛られた。苦しくなるとつい前成功した時にやった事に戻ってしまう。結局、何が自分をそれから解放したかというと、遊び、揺らし、実験。固まる前にこちらから揺らしてしまう。毎日実験する。三日坊主を繰り返す。
勝ちたいと思いすぎると確実なものを選ぼうとして固まってしまう。成功は動くから、皮肉な事に、急に逆方向に走り出してみた方が、気がつくと勝利に向かっていたりする。その時に必要だったのが私にとっては「揺さぶり」で、「遊び」だった。
◆去り際、揺さぶり際◆
日本では「石の上にも三年」というように、反復を繰り返す事の重要性、一つの事を貫く事の重要性が比較的よく言われる社会だと思う。これは確かに重要だと思うけれど、弊害として「変える事や辞める事が遅くなりすぎる」という側面もあると思う。
現役時代、22歳で初めて海外の試合に参加した。自分では少し早いかなぐらいの感触だったけれど、実際にはもっと実力が劣っている選手もたくさん来ていて、遅すぎたと思った。陸上における日本人の準備万端は、既に機を逸した後ぐらいだと思った。
スキーを習った時、転び方を習い、スティックの使い方を習い、ボーゲンを習い、気がつくと研修が終わっていた。アメリカでハードルを始めた少年は、1週間後にいきなり試合に出てしまった。練習、その先に実戦。実戦、その為の練習の違い。
「揺さぶり」が大事と言ったが、「揺さぶる」タイミングは、私にとっては「再現」できるようになった時。あまり考えなくても出来るようになった時。慣れると急に成長速度が鈍るので、すぐ新しい事に向かう。ある意味何をやってもいい。とにかく常に工夫しないといけない状況に自分を追い込む。
「旬だな」と思う時、大体終わりが近づいているんだと思う。どれだけ熱狂の中で終わりを感じられるか。船を早くおりすぎて宝がもらえない事も、船を降りるのが遅すぎて沈む事もある。どちらかというと日本人的性質は船を降りるのが遅すぎる事が多いように思う。
「諦めない」とも言えるけれど、「損切り出来ない、変化できない」とも言える。本当はもう終わっているのを知っているのに、今までやってきたから、みんなに迷惑がかかるから、という理由で続ければ、強い後悔が将来待ち受けている。
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