[藤田正美]世界経済は回復しつつあるのか?〜IMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し」最新版を発表
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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今週、IMF(国際通貨基金)は、今週21日、世界経済見通し(World Economic Outlook)の最新版を発表した。それによると、世界経済は明るさを増しているようだ。世界全体の成長率は10月時点の予想よりも0.1%幅上乗せされ3.7%(2013年は推定3.0%)である。
予想を押し上げたのは、アメリカや日本、それにイギリスだ。アメリカは、FRB(連邦準備理事会)が証券購入による量的金融緩和の縮小を打ち出したが、今年は2.8%成長(2013年は1.9%)と安定成長の軌道に乗りそうだ。4月に消費税の引き上げを控えている日本は、実質成長率は1.7%(2013年も1.7%)と前回予想よりも0.4%幅も高くなった。金融緩和効果と財政支出効果ということだろうか。
イギリスが目覚ましく回復している。財政支出の切り詰めで成長率を大きく下げていたが、2013年の後半は一気に明るくなり、通年では1.7%、さらに2014年は2.4%成長が見込まれている。もしこのままイギリス経済が順調に成長路線を歩むことになれば、財政再建派のイギリスと財政刺激派のアメリカという「論争」はイギリスの勝ちということになるかもしれない。アメリカも景気が回復しているとはいえ、金融緩和の出口戦略はそう簡単ではないからだ。
フィナンシャルタイムズ紙は、ダボス会議でも「恐怖は後退したが、もろさは残る」と書いた。「慎重な楽観論」というのが、いちばん分かりやすいかもしれない。
このコラムでも書いたように、ヨーロッパの銀行制度は内出血したままなのである。それを大手術する必要があるのか、それとも何とか止血しているうちに体力が回復して自然に治癒するのかはまだ分からない。ただ日本の経験から言えば、ゾンビ銀行やゾンビ企業を放置しておいて、自律的に治癒することはない。それは経済効率が悪すぎるからだ。
もう一つ注目すべきはインドだ。アメリカの金融緩和縮小でドルが流出して通貨安に悩んでいるが、今年の成長率は5.4%、来年は6.4%と成長力を取り戻すという予想だ。ただそのためには規制の改革や投資を呼び込むための政策措置が必要である。それにインフレがどのように推移するかで長期金利が変わってくる。中央銀行が効果的にインフレという宿痾を抑えこめるかどうかは、まだ今のところ分からない。
それでもやっぱり気になるのは、現在のような超金融緩和からどうやって普通の金融政策に戻るのかということだ。アメリカは今年から証券の買い入れ額を850億ドルから750億ドルに減らした。そのまま「軟着陸」できればいいが、舵取りを一歩間違えると、世界経済に大きな負担をかけることになる(新興国は去年の後半、アメリカの政策によってダメージを受けた)。
日銀の黒田総裁は、デフレからの脱却に自信を見せているが、本当にコントロール可能なインフレになるのかどうか。大げさな言い方をすれば、人類史上、このような金融緩和をしたことがないのだから、結末にいたるシナリオを描くのも、実はそう簡単ではないはずなのである。
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