日露首脳会談 北方領土問題進展不透明
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー(8月29-9月4日)
今週の焦点はやはりウラジオストクで開かれる日露首脳会談だろう。日本のメディアは日露関係の強化がなるか否かに注目している。両首脳の会談は今回で14回目。それにしても、安倍首相のこの熱意は一体どこから来るのか。
マスコミは祖父岸信介元首相も父安倍晋太郎元外相も現職当時熱心に対ソ外交に取り組んだので、首相には特別な思いがあると推測する。果たしてそれだけだろうか。 特別な思いだけでは決して領土は帰ってこない。まして相手はロシアである。
前回の会談で首相は8項目経済協力プランを提示し「新アプローチ」で交渉を進めようと提案した。今回の首脳会談ではこうした日本側の手法がどこまで通用するかが明らかになるだろう。ポイントはロシアがこのような餌に飛び付くかどうかだ。
ナショナリズムを背景に強いロシア復活を目指すプーチン大統領は簡単に譲歩する筈がない。話し合いはプーチン訪日後も続けるつもりだろう。その意味でも今回プーチン訪日の有無と時期が焦点になるのだが、本当にすんなり決まるだろうか。
ご異論のある向きがあることは承知の上で申し上げる。近い将来北方領土問題が解決する可能性は低い。日本の外交の基本戦略はG7での連携であり、日露対話はその枠内で戦術的に行うべきだ。当面は北方領土占領という「既成事実」の時効を停止しつつ、将来ロシアの「外交革命」を待つ戦略が日本にとって最善と考える。
〇欧州・ロシア
欧州は今秋から本格的に再始動する。今週注目するのは英国航空BAがテヘランとの直行便を再開することだ。イランの対西側分断作戦は着実に成果を上げているということか。それにしても、大英帝国も落ちぶれたものだ。
〇東アジア・大洋州
2-3日にウラジオストクで経済フォーラム、4-5日に杭州でG20首脳会議がある。最近の中国外交の低姿勢は全て議長国としてサミットを「円満成功!」させるためだろう。逆に言えば、こうした中国の態度がいつまで続くかは未知数ということだ。
〇中東・アフリカ
29日からサウジの副皇太子が中国と日本を訪問する。この副皇太子、若干30歳だが、今や国王に次ぐ権力を持っているそうだ。サウジの国家再建に夢を抱いてアジアに来るのか。中国は将来の国王候補を丁重に扱うだろうから、日本も頑張らないと・・・。
○アメリカ両大陸
トランプの勢いに陰りが出て久しいが、まだ誰もヒラリーの勝ちとは断言しない。趨勢は見えてきたが、米マスコミはこれからが本当の「農繁期」だ。「勝負は決まった」などという興醒めなことは口が裂けても言わないのだろう。だから、筆者も言わないことにする。
〇インド亜大陸
今週はハイレベルの訪印が続く。29-31日に米国の国務長官と商務長官が、9月に入ってからはエジプト大統領がインドを訪問する。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。