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.国際  投稿日:2016/11/10

女性が活躍する仏に学ぶ 小学校女性教師率8割


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

フランスの女性運動活動グループが、11月7日は、16時34分7秒になったら仕事する手をとめようと女性達に呼び掛けた。というのも、フランスではいまだに男性と女性の平均所得に15.1%の違いがあり、その時間以降女性が働くことはボランティアでしかないと言うのだ。

日本で同じことをしたらどうなるだろうかと思い調べてみたら、なんと日本の男女所得の平均の差は26.59%(注1)日本の女性はフランスの女性よりも、もっと早い時間に仕事を切り上げなくてはいけないようだ。

これだけ男女間の平均所得の差がでる原因は、非正規労働者も多いからだが、女性の管理職が非常に少ないことも原因であることはよく知られている。女性の管理職が少ないことがネックとなり、世界経済フォーラム(WEF)が10月下旬に発表した「男女格差(ジェンダーギャップ)」の比較でも、日本の順位は111位と低い結果に終わっている。だいたい、どの国でも女性の割合が他の業種よりも高くなりがちな教師職ですら、日本は女性の管理職の割合が少ないのだ。

フランスの学校では教師には男性がほとんどおらず、女性ばかりが目につく。それもそのはず。特に小学校での女性教師率は、公立の学校では82.9%と多い。上の学校に上がるにつれ女性教師の割合は減っていくものの、全体の平均は66.6%(注2)であり、教師の半数以上は女性なのだ。

教師に女性が多い理由として、パートナーの転勤があっても仕事がみつけやすいこともあるが、やはり子育てする上で、教師職は子供のライフスタイルに合わせやすいという利点が大きい。5時に仕事が終わり、子供の長期休み期間にも同時に休めるため、フランスの女性にとって教師職は子供を育てながらも働きやすい職種なのだ。

教師に女性が多い結果、管理職にあたる校長の女性の割合も43.6%と高い。おかげで、全体の管理職につく女性の割合の底上げにもなっているのではないだろうか。

しかし、日本を見てみると女性の教員自体の割合が49.4%(注3)しかいない。しかも幼稚園教諭が93.4%と女性が多く平均値をあげているが、小学校ですでに女性教師の割合は62.5%にぐっと下がり、さらに上の学校に上がるにつれどんどん女性教師率が減っていく。

女性の管理職に至っては、日本政府が東京五輪開催の2020年までに、女性が占める割合を3割以上とする目標を掲げているため増えてはきてはいるものの、それでもまだまだ目標にはほど遠い15.8%(注4)と言う低さなのだ。これは、他の国と比べて見てもかなり少ない。

この女性の管理職が少ない理由を探ってみると、日本が他の業種で抱えている問題とほとんど同じであることが分かる。問題点は大きく分けて3つ。

1.働く時間が長い。そのため家庭との両立が難しくなる
2.男性が多い職場では、女性が指導しにくい
3.地域性

1つ目は労働時間の問題だ。OECDの国際教員調査(注5)によると、なんと、日本の教師の仕事時間の合計は週53.9時間であり、調査を行った34カ国中で一番働く時間が長いのだ。フランスは36.5時間。調査参加国の平均は38.3時間となっている。勤務時間が長くなる原因は、計画・準備に週8.8時間、クラブ活動に週7.7時、事務に週5.5時間取られるなど、日本は授業時間のほかに費やす時間が多く、決して他の国のように子供を育てながら働きやすい環境ではない。

他の国では、教師の仕事はほぼ授業と授業関連のみである。それに対し日本の学校は教育熱心で生徒にはありがたいことなのだが、授業のほかの仕事が長時間労働につながり、管理職になればさらに家庭との両立が難しくなる。その結果、管理職につきたいと思う女性が少なく、それどころか、最近では教師自体になりたい女性の数も減ってきているそうだ。

いっそのこと、教師の負担を減らすために、拘束時間が特に長いクラブ活動などについては定年退職者の有識者に委託するなど、先生の業務から切り離すことを検討にいれてはどうだろうか。とにかく、日本の一人当たりの労働時間を減らす方法は、教師に限らず全体の職種にあてはまることでもある。長時間労働が原因で自殺した電通の女子社員のような悲劇を繰り返さないためにも、国を挙げて考えていく課題とも言えるだろう。

2つ目は、男性が多い職場で女性が管理職になると、コミュニケーションがうまくとれず指導がしにくいと言うものだ。男性間に飲んでコミュニケーションを持つという考え方が根強くあったり、男性社会の習慣があると、女性の方法で指示しにくいと言うのだ。また男性が多い上、男性が指導するものと言う概念が元からある場合、それを打ち壊していくことは容易なことではない。

3つ目は地域性である。校長の数を都道県別に比較してみると、共働き率が高い県と、女性の校長の多さは比例している(注3)。例えば、日本の北欧と呼ばれるぐらい女性の共働き率が高い福井県では、女性の校長がいる割合も全国1位だ。女性が働くことが地域的に肯定的な県では意識も高く、女性も管理職につきやすいと言えるのではないだろうか?だが地域性は、長年の歴史で作られてきたものであり、変えようと思ってすぐ変えられるものでもなく、根本的な対策が必要になってくるだろう。

だいたい、子供時代を思い浮かべてみてほしい。その当時、学校で指導者の立場にはいたのはほとんど男性だったのではないだろうか?フランスだとその様子が一変する。学校に入ればすでに女性の管理者が多く、男性に指導している女性の姿を肌を持って感じて育っていくのだ。しかし、学校内で女性自体も少なく管理者も少ない日本の学校では、女性は指示される側であり、男性は管理職と言う刷り込みがなされていることとなる。

「女性が国を率いる。娘にはそれを見て育ってほしい」

これは、歌手のビヨンセがアメリカ大統領選に挑むヒラリー氏への応援演説で言った言葉だが、日本の学校にも同じ事を言いたい。

「もっと多くの女性が学校の管理職に着き、子供たちは、女性が指導する姿も見ながら育ってほしい。」

女性と男性との所得格差をなくすために、まず意識を変えていかなくてはいけない。その意識を変えるためにも女性の教師を増やす努力をするべきだ。そして学校内の女性の管理職をもっと増やしていく努力がさらに必要なのだ。そのために、まず教職の負担を減らし女性が働きやすい体制に変えていくことが必須となることは間違いないだろう。女性が働きやすい職場。まずはそこからではないだろうか。

(注1)OECD 「男女格差(ジェンダーギャップ)」
https://www.oecd.org/gender/data/employment/
(注2)Enseignants du public et du privé par corps en 2015
http://www.insee.fr/fr/themes/tableau.asp?reg_id=0&ref_id=nattef07115
(注3)校長・副校長・教頭の登用率の推移
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/02/19/1331032_01.pdf
(注4)文部科学統計要覧(平成26年版)
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/002b/1349641.htm
(注5)OECD(TALIS 2013)
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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