【大予測:米中関係】トランプ外交で激突の時代へ
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
新しい年、2017年は国際情勢がこれまでの枠を超えて激動し、アメリカと中国との関係が従来とはがらりと変わって、険しい対立の時代を迎えるだろう。
この予測の最大の根拠はアメリカのトランプ新政権の対中政策にある。トランプ氏のその政策はいまの段階でも骨組みをはっきりとさせてきた。オバマ政権時代の対中協調、対中融和の構えを一変させ、強固な姿勢で中国の拡張や威圧を抑えつけていくという構図が着実に明らかとなってきたのだ。
トランプ氏の対中姿勢の最大の新要素は「一つの中国」の否定とも受け取れる12月11日の言明だった。「アメリカはなぜ『一つの中国』に縛られねばならないのか」という重大な疑問を提起したのだ。
「一つの中国」とは「台湾は中国の一部であり、暫定的に反旗を翻す一省にすぎない」という趣旨の原則である。米中両国間では1979年の国交樹立以来、最大の基本原則として、歴代のアメリカ政権はそれを遵守して、台湾を国家のように扱うことを一切、避けてきた。その大原則をトランプ氏は歴代のアメリカ側首脳としては初めて、守らないような意図を表明したのだ。中国側にとっての衝撃は明らかに重大だった。
トランプ氏はその前段として12月2日には台湾の蔡英文総統と電話会談を断行した。これまた歴代のアメリカ首脳としては初めてだった。「一つの中国」の下ではアメリカは台湾を国家ふうに扱ってはならないのだ。
トランプ氏のこうした型破りの言動の背後には、オバマ政権の対中政策を軟弱だとする非難や中国側の軍拡を糾弾しての東アジアでの米軍増強の意図表明などの動きが存在する。トランプ氏の政策顧問たちは中国の南シナ海などでの最近の無謀で無法な行動に対し、アメリカ側の断固たる軍事力による抑止や中国に対する「封じ込め」政策を具体的に提案している。
中国側にとっても「一つの中国」は核心的利益のなかのまた核心だといえる。激しく反発することは目にみえている。習近平国家主席はそれでなくてもアメリカに対しては米中両国が対等となる「新型大国関係」の樹立を主張し、東アジアでは軍事力の行使をためらわないような強圧的な言動をとってきた。こうした米中両国がまず当面は激突に向かうというのが2017年に予測されるシナリオだとみざるをえないのである。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。