.経済  投稿日:2017/1/12

【大予測:自動車業界】トランプ氏のツイートで激震 その2

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遠藤功治(株式会社SBI証券)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

■トランプ氏の“トランプ遊び”

当たり前の話ですが、トランプ氏は次期米国大統領ですが、1月20日までは、まだ正式な大統領ではありません。また、公の場所で、NAFTA等につき新政権の通商政策を発表した訳でもありません。現状では、1個人がTwitterで“つぶやいた”だけの話です。それでも既に、FORD、GM、トヨタ自動車と次々に餌食となり、FORDに至っては、16億ドルの工場建設計画を白紙撤回する、という事態になっています。いくら次の大統領に決まっているからといって、その正式就任前に、つぶやきながら実際の政治行動に結び付けているのは前例がありません。

まだトランプ氏に名指しはされていませんが、日産自動車とマツダの経営陣は、正直戦々恐々でしょう。実際、米国がNAFTAから脱退する、ないしはメキシコ製自動車にBig Border Taxを課す、ということになれば、最もその影響を受けるのは、日産自動車とマツダだからです。そして、彼らを信じてついて来た、系列の自動車部品企業でしょう。メキシコには完成車メーカーのみならず、1,000社を超える日系企業が終結、自動車部品のみならず、金属・機械・化学・繊維・電機・精密・物流各社が立地、現在もまだ、進出企業数は拡大中というのが現実。完成車メーカーの減産などという状況に陥れば、裾野が広い自動車では、関連産業に多大なる影響が出ることになります。

勿論、実際に上記のような政策を、正式に実行に移せるのかどうか、というのは大きな疑問です。今後、米国共和党内や議会での議論の中で、果たして大統領選最中の公約通りの政策が実現されるかは、甚だ疑問ではあります。実行されれば明らかなWTO違反でしょうし、相手国からの敵対行動発動など、現在の貿易体制は大きく揺らぎます。

ただ、WTO違反と言っても、その違反判定までには数年を要します。その間の米国での機会損失や、反トランプ(米国)的姿勢と捉えかねない米国民世論を前に、米国におけるビジネスチャンスを大きく損ねる可能性があります。トヨタ自動車の新工場が完成するのは、まだ2年後の2019年、とりあえずは様子見で、というのが従来のトヨタ自動車経営陣のスタンスだった筈です。他の自動車メーカーでも、根拠が無いと言えば無いのですが、それなりに楽観的なスタンスで、現実には何も起こらないであろうと、トランプ氏の政策を見ていた筈です。それが、今回のトヨタ自動車に対するtwitter攻撃で、雰囲気は完全に一転しました。

今回のNAFTAやメキシコがらみの話、これは本当に協定からの脱退・高関税など、政権移行チームが具体的に、通商・外交政策を詳細に詰めた結果としてのものなのでしょうか。正直、筆者には甚だ疑問です。別に冗談を語るつもりはありませんが、“トランプ氏はまさにその名前の通り、トランプゲームをしている、具体的にはポーカー”というように映ります。ポーカー、あの5枚のトランプを使ったカードゲームです。ポーカーは、5枚のカードの並び(ハンド)で勝負を決めます。一般には10通りのハンドがあり、より強いハンドを目指して2-5人で争います。最も強いハンドは“ロイヤルストレートフラッシュ”、その他、“フォアカード”や“フルハウス”、“フラッシュ”や“ストレート”、“ツーペア”・“ワンペア”など、カードの数字の並びやマークによって、ハンドには決められた強さの順番があるのはご承知の通りです。より強いレベルのハンド、カードの並び・組み合わせを求めていくゲームです。

別にここでポーカーの解説をするつもりはありませんが、このゲームの最大の特徴は、ブラフ(うそをつき、はったりをかまし、相手の表情を見ながら、“ポーカーフェース”で、たまにアクションも交えて芝居をする)が許されていることで、“徹底的な心理戦”であるという点です。基本、ハンドの強さで勝負は決まりますが、相手をフォールド(ゲームから降りさせる)させれば、ハンドの強さに関係なく勝つことが出来る。手元にろくなカードもないのに、チップを積み増したり(レイズ)、驚いて見せたりして、相手を惑わす訳です。かつ、何回勝ったかのというのは問題ではなく、最後に勝った時のチップを大きくし、負けた時の損失を最小限に抑えるという、俯瞰的・総合的な戦略が必要になります。最後に勝った者が、全てのチップを手に入れる訳です。

振り返ってトランプ氏ですが、前述したように、彼はまだ正式な米国大統領ではありません。ただ、“つぶやいているだけ”です。現状では、あちらこちらに向かって、様々なカードを“ドロー(自分の持っているカードから何枚かを捨て、同じ枚数を新たに取る)”している、ないしはその“フリ”をしているだけ。餌らしいものと毒らしいものの双方を撒き散らしている“フリ”をし、それをつぶやくことで、誰がどのようなリアクションを返してくるのか、俯瞰的に観察しているのかもしれません。まさにポーカーそのものです。

FORDの場合、見事にその心理戦に引っかかり、Mark Fields(CEO)は、フィールズならぬ、フォールド(試合から撤退、メキシコ新工場撤回)してしまいました。FCAは新たに10億ドルの投資を約束、トヨタ自動車も今後5年間で100億ドルの投資をすると米国で実施するそう。ポーカーでの醍醐味、次々に強力なカードがトランプ氏に舞い込み、結局最終的には、トランプ氏が全てのチップを取る勢いです。

(その3に続く。全3回。その1。毎日23時配信予定。)

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この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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