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.国際  投稿日:2017/1/25

異様な日本メディアのトランプ叩き


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカのドナルド・トランプ新大統領に対する日本のニュースメディアの報道も異様なほど熱心である。新聞の主要各紙も、テレビの主要チャンネルもトランプ氏関連の報道や論評に満ち満ちている。日本の一般の読者や視聴者の関心の高さを反映しての現象だろうか。

だが日本のトランプ報道は現段階ではきわめて批判的、ネガティブである。トランプという名前が出れば、とにかく「偏見」「差別」「横暴」「無知」などという負の言葉が並ぶ。まだ実際になにも始めていない大統領や政権に対しての報道姿勢としては先入観にまず流されての「トランプ叩き」と呼んでもよい極端さなのだ。

そのなかでもトランプ氏の就任前の1月11日の記者会見の報道はとくに偏りが激しかった。当選後初めてのこの会見でのトランプ氏の言動は「排他と対立を扇動する大統領へ。あられもない現実」(朝日新聞1月12日夕刊コラム『素粒子』)と断じられたのだ。そこではトランプ氏側の主張への光はまったく当てられない。

この会見ではトランプ氏はCNNテレビの記者から質問をぶつけられ、答えることを拒んだ。CNNがその直前にトランプ氏の行動について虚偽の報道を流したことに抗議してのCNN相手にせず、という対応だった。

この展開は記者会見の以前にまでさかのぼって実態をみないと、公正な全体図は浮かんでこない。CNNはロシアの情報当局筋からの「秘密報告」として「トランプ氏がモスクワの豪華ホテルで乱交や放尿という乱痴気騒ぎをした」という報道を流していた。本来はニューヨークを本拠にし、娯楽ニュースなどをメインに急成長したバイラルメディアの草分け「BuzzFeedバズフィード)」が流した「報告」だった。35ページに及ぶこの「報告」はトランプ氏のめちゃめちゃな言動の数々をきわめてどぎつい形容で伝えていた。

だがこの「報告」が虚偽だったのである。アメリカの情報当局者が「根拠がない」と断定した。イギリスの情報当局も同様だった。(注1)アメリカの大手メディアもみなその内容を知りながら無視をした。ワシントン・ポストのメディア問題コラムニストでニューヨーク・タイムズの元編集長のマーガレット・サリバン氏も「明らかに虚構だとわかる情報を伝えたバズフィードの対応は無責任であり、間違っていた」と論評した。

ところがCNNだけはその虚報を真実であるかのようにして報じたのだ。当事者、しかも虚報の被害者となるトランプ氏が激怒するのは当然だろう。(注2

1月11日のトランプ氏の記者会見はこうした騒ぎの直後に催されたのだ。だから彼がCNNテレビの記者の質問を認めなかったことも、それなりに理があったといえよう。ところが日本の報道ではこの前段の重要な経緯が伝えられず、ただただトランプ氏がCNNに不当な怒りをぶつけているかのように報じられたのだ。そしてそこからトランプ新大統領がメディア全体を弾圧するような構図が日本の主要メディアの多くでは描かれていったのである。

 

(注1)参考リンク

http://www.dailymail.co.uk/news/article-4111856/Director-National-Intelligence-tells-Trump-dismay-Russian-dirty-dossier-leaks.html

(注2)CNNの一連の報道

http://edition.cnn.com/2017/01/10/politics/donald-trump-intelligence-report-russia/


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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