米、対北朝鮮全面戦争の引き金引くか
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#17(2017年4月24-29日)
【まとめ】
・仏大統領選、マクロン優勢でEU離脱遠のくとの見通し。
・北朝鮮の核実験・ICBM発射の場合の米対応が焦点。
・米国の軍事行動は全面戦争につながる危険性。
先週末の日曜日にフランス大統領選挙の投票があった。結果は、ある程度予測されていたこととはいえ、既存二大政党の敗北と二人のアウトサイダー候補の決選投票進出が決まったということ。気の早い連中は、5月7日の第二回投票でのマクロン候補の勝利をもう予測し始めている。
ルペンとメランションの一騎打ちとなれば反EU候補同士の決選投票となっていた。そんな最悪の事態だけは回避できたと安堵している人も多いというが、問題はそれに止まらない。既存政党の不甲斐なさは目を覆うばかり。39歳のマクロンが大統領になってもフランスの政治社会状況が改善するとは思えない。問題はポスト・マクロンだ。
以前から気になっていたことがある。ルペン候補が「極右」と呼ばれるのに対し、極端な左派のはずのメラション候補はなぜ「極左」ではなく、「急進左派」と呼ばれるのだろう。フランス語で使い分けているのか、それとも日本メディアに別の理由があるのか。英語の記事でもメラションをfar-leftと紹介する記事があった。それなら「極左」だろう。
アジアではやはり北朝鮮問題が焦点だ。25日は朝鮮人民軍創建日だから、今度こそ核実験かICBM発射があるのでは、と囁かれている。最悪の事態は北朝鮮が暴発し、トランプ氏が第二次朝鮮戦争を始めることだろうが、その可能性は低いだろう。むしろ気になるのは、北朝鮮の核実験やICBM発射があった場合の米国の対応だ。
下手な米国の軍事行動は全面戦争の引き金を引く可能性がある。されば、米国は「無為無策ではないが、戦争には絶対に至らない」ような強制力を伴う行動を適切にとれるのか。この対応はデリケートで決して容易ではない。強すぎても弱すぎても、米国は誤ったシグナルを北朝鮮に送ることになるからだ。何事もなければ良いのだが。
〇欧州・ロシア
既に触れた通り、23日の仏大統領選挙で極右候補と中道系独立候補が決選投票に進んだ。これでフランスのEU離脱は遠のき、独仏の枢軸も当面維持されるとの見通しが大勢となりつつある。しかし、これで欧州の政治危機が一段落し、各国で中道志向が強まると見るのは時期尚早ではなかろうか。
〇東アジア・大洋州
25日に東京で日米韓の六者会合首席代表会合が開催される。最近の北朝鮮情勢や日米韓の連携について議論する予定だが、このタイミングは絶妙だ。しかし、今更六者会合なのか。六者会合は中国抜きの北朝鮮問題協議を封ずるという、北京にとって最も有利な会議だ。これに戻っても展望は開けないだろう。
〇中東・アフリカ
25-26日、イラン国防相がロシアを訪問する。26-27日にモスクワで国際安全保障フォーラムが開催されるのでこれにも参加するのだろう。このフォーラム、2012年が最初で今回が6回目。「国際テロとの戦い」「欧州・アジア太平洋地域の安全保障」などが議論されるというが、日本からは誰が参加するのだろう。
〇南北アメリカ
25日、イヴァンカ・トランプ大統領補佐官がドイツを訪問する。W20サミットという女性リーダーの集まりに参加するのだそうだ。オランダ女王、IMF専務理事、カナダ外相、ドイツ家庭担当大臣等も参加する。あれだけネポティズムだと厳しく批判されたが、メラニア夫人の代役をやっていると思えば、それはそれで良いのかもしれない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
あわせて読みたい
この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。