自転車用高速道路がある国 デンマークの「人を幸せにする仕組み」4
安岡美佳(コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー, 北欧研究所 )
【まとめ】
・デンマークで自転車の為の高速道路開通。
・2050年までに化石燃料廃止掲げる。
・IoTが快適な自転車社会をサポートしている。
皆さんは、日常生活でのストレスを、どのようなときに感じるだろうか。混雑する電車、遅々として進まない高速道路、なぜか毎回引っかかる赤信号など、毎日のことであるがゆえに、特に大都市に住む人たちにとって移動にまつわる事項は馴染みの深いストレスではないだろうか。
今年の国連の幸せ指数ではノルウェーに抜かれ2位となったデンマーク。それでも、幸せの種はあちこちに見られ、特に、私が「幸せ」に生きるために重要だと考える「毎日の生活を不必要なストレスをなくして暮らすための工夫」が、次々に構築されている。今回のテーマは、毎日の通勤・通学のストレスを軽減する工夫である。
■自転車用高速道路開通
5月2日、コペンハーゲン首都圏では5ルートのスーパーハイウェイが開通した。驚くなかれ、4輪自動車のための道路ではない、自転車のための高速道路だ。先んじて2012、2013年に開通していた高速道路に続き、今回全長115キロ、首都圏エリアの13市にまたがるルートが開通した。このルートは長距離サイクリストを想定して構築されており、長時間の走行でも安心で楽しく、また安全に走行可能な道路整備が進められた。
自転車高速道路は、自動車交通量の多いエリアは避けられ、また、多くのルートではおしゃべりしながら走れる走行車線2線と追い越し車線の計3車線確保されている。また、後述するが赤信号で停止する必要を最低限まで抑えたスマートな仕組みも導入されている。
■グリーン・モビリティ掲げるデンマーク
デンマークは2050年までに化石燃料の廃止・100%再生可能エネルギーへ転換するというエネルギー戦略を掲げている。コペンハーゲン市も2025年までに世界初のCO2ニュートラルな市となるという目標を掲げており、これらの目標達成の為、首都圏エリアを挙げて、エネルギー効率化やEV普及への取り組みが盛んに行われている。そのうちの一つが、グリーン・モビリティ(環境に配慮した移動手段の構築)であり、公共交通機関の整備、自転車活用の促進、電気自動車や環境に優しい燃料の活用であり、今回の自転車高速道路につながっている。
■IoTがサポートする快適なサイクリング
私は、この自転車高速道路の使い勝手に、社会に根付くIoTの仕組みが大きく貢献していると考えている。例えば、コペンハーゲン市が提供するアプリ(サイクリング・プラン)は、自転車での移動をサポートする 。サイクリストをターゲットにしたルート検索が主な機能で、細かいところにまで配慮が行き届いている。例えば、ルートは、最短ルート、快適ルート、電車を使うルート(例外もあるが電車に自転車を持ち込むことが可能)の3種類から選べる。また、石畳(自転車では通りにくい)や一方通行(デンマークは自転車の交通ルールも厳しく、一方通行や下車して自転車を押していく必要がある道路もある)を避けたルートが提示される 。地図データは、クラウドソースのOpenStreetMapから取得され、日々アップデートされる。
また、スマート信号の導入もサイクリストに嬉しい。コペンハーゲンは、北欧初のスマート信号導入都市として、取り替え時期にあった市内の信号380個をスマート化した。スマート信号は、サイクリストが時速20キロで走行することで、信号で足止めされることなく都市部と自宅の行き来ができるように調整されている。センサーを用いて、サイクリスト集団が信号に接近した際には、青信号をちょっと引き伸ばすといった実験も進行中であり、今後も改良が進められていくだろう。ちなみに、コペンハーゲン市は、スマート信号はサイクリストの移動時間を10%短縮。
コペンハーゲンの自転車高速道路整備は野心的な環境に配慮した都市計画によるところが大きいが、目に見えない部分であるITがこの毎日の通勤・通学ストレスの軽減に貢献していることは疑いない。コペンハーゲンにお越しの際には、是非、レンタル自転車で快適なモビリティ体験をしてみてほしい。
トップ画像:自転車で移動するコペンハーゲン市民 © Wonderful Copenhagen Photo by Kasper Thye
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この記事を書いた人
安岡美佳コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー、北欧研究所代表
ロスキレ大学サステナブルデジタリゼーション准教授、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員、JETROコンサルタント
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。
東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、2009年にコペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。
現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。
また、参加型デザインで日本に貢献することを念頭に、最近ではデザイン手法のワークショップやデザイン関連のコンサルティング、北欧(デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・グリーンランド)に関する調査・コンサルティング業務に従事。