高度プロフェッショナル制度反対 連合神津里季生会長
「細川珠生のモーニングトーク」2017年8月19日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(大川聖)
【まとめ】
・連合「労基法改正案を容認から撤回」との一部報道は誤解。
・高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の範囲拡大には一貫して反対している。
・民進党は新代表の下、社会保障・教育で情報発信を。
7月末、働いた時間ではなく、成果で評価するとして労働時間の規制から外す、高度プロフェッショナル制度の政労使合意が先送りと報道された。
一部報道では、連合(日本労働組合総連合会)は、これまで高度プロフェッショナル制度導入を含む労働基準法改正案を「容認」していたが、それを「撤回」したとされた。政府も進めている働き方改革について、政治ジャーナリストの細川珠生氏が、日本労働組合総連合会会長の神津里季生氏に話を聞いた。
■「容認」→「撤回」報道は誤解
まず神津氏は、高度プロフェッショナル制度を「容認」した、とする一部報道は「誤解」と述べた。「高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の範囲の拡大は当初から一貫して反対し続けている。」と強調した。
現在、年間200人が過労死・過労自殺で亡くなっているという実態があり、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の範囲の拡大は、「(過労死・過労自殺の)悲劇をまた多く生んでしまう危険があると警鐘を鳴らしていて、制度導入は反対だ」と神津氏は述べた。
一方で、「働き方改革実現会議の結果を経て、長時間労働を是正する法案が秋の国会で出てくるだろう。」と述べ、長時間労働是正に向けた動きに対しては一定の評価を示した。
神津氏は、二年間「店晒し」であった労働基準法改正案に高度プロフェッショナル制度を盛り込むことに対して疑問を呈している。政府は長時間労働是正と高度プロフェッショナル制度の両方を含めた法案を提案しているが、神津氏は「この2つは方向が全く違うため1つにする必要がない」と述べた。
そのうえで安倍一強政治、与党が強い状況なので、「法案を改善・修正を要請した」と述べ、報道による「容認」と「撤回」という言葉は当たらないと改めて指摘した。
■高度プロフェッショナル制度に反対
高度プロフェッショナル制度は、過去2回の安倍政権でも法案にならなかった。今回は年収制限を設けたが、高年収でも過労死になりうる、と神津氏は指摘した。
神津氏は、高度プロフェッショナル制度の中身について、「残業代を支払われない管理職の場合、かろうじて夜中に働いた分は深夜割増の手当てがある。しかしそれすらなくなれば、労働時間は賃金と関係がなくなる。」と指摘した。
これらは「一見成果に応じているようだが、すでに多くの企業が成果に重きをおいた賃金体系を取り入れている」と述べ、「過労死・過労自殺の危険性を高める」ことになるとして、高度プロフェッショナル制度を盛り込む必要はないとの考えを示した。むしろ今ある制度の中で、成果が出ていれば就業時間を終えていなくても帰ることができるようにすべきだと述べた。
細川氏が、労働と休暇のバランスを上手くとるためにはどうしたらよいか、国が制度を作って後押しすべきか、それともある程度企業に任せるべきか、と質問した。
これに対し神津氏は、日本は休暇をうまくとることができない人が多い傾向にあると指摘し、「労働基準法は最低基準を決める法律であり、大事にしなければならない。」と述べ、過剰労働を抑えるために重要な法律であるとの考えを示した。
また、「現在数の足りない労働基準監督官を増やし」、違法であるブラックバイトやブラック企業は取り締まる等、運用をしっかりすべきだと述べた。
また神津氏は、「罰則をつけ(労働の)上限を規制しなくてはならない。今の「三六(さぶろく)協定」(注1)ではいくらでも働くことができることになっている」と述べ、上限を設けることの重要性を指摘した。「時代に応じ、労使関係でお互いのニーズの一致点を見出し、成果に応じた制度」を作る必要性を強調した。
■安倍政権と引き続き協議
働き方改革を掲げ作られた労働基準法改正案は2年間店晒しにされてきた。2年前の時点では労働基準法改正案は新自由主義的な考え方が基盤で作られたものである。連合が反対していた労働者派遣法は安倍一強時代に強行採決された。
こうした背景の中で「同じ労働基準法といっても、全然違うモードの時に作られたものを無理に合体させるのが本当によいことなのか。」と疑問を呈し、8月末の労働政策審議会でもその点を主張していく考えを示した。
■新生民進党、社会保障・教育立て直しを
民進党は離党者が続出する一方で代表選が控えている。政界再編の動きが予想される中で今後、連合はどういったスタンスで関わっていくのか、細川氏が質問した。
神津氏は、辞任した蓮舫前代表による、「新しい代表に民進党一本の姿を確立してほしい」というメッセージを重く受け止め、良い代表選にしてほしいと答えた。
また神津氏は、民主党時代から掲げていた「共生社会」の理念を挙げ、「負担の問題を抜きに将来は語れない。将来世代に向けて社会全体で負担を分かち合い、社会保障、教育をどのように立て直していくか、と世に問うていく姿を発信してほしい」と述べ、新生民進党に期待を寄せた。
注1)三六(さぶろく)協定
労働基準法は労働時間・休日について、1日8時間、1週40時間(第32条)及び週1回の休日の原則(第35条)を定めている。これに対して第36条は「労使協定をし、行政官庁に届け出た場合においては、(32条、35条の規定にかかわらず)、その協定に定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」として、残業や休日労働を行う場合の手続を定めている。この労使協定のことを、法律の規定条項である第36条をとって「三六協定」と呼ぶことがある。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2017年8月19日放送の要約です)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。