止まぬ北の核開発 米朝もし戦わば?
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・止まぬ北朝鮮の挑発、日米韓は打つ手なし。国連制裁も効果期待薄。
・体制維持が目標の北朝鮮と米の直接対話の可能性も。
・核の脅威に世界はもっと関心を持つべき
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北朝鮮が核実験を武器に身勝手な行動をとり始めていても、日・米・韓は思い通りに抑制できずにいる。すでに核実験や大陸間弾道弾の日本の上空を通るミサイルの発射は6回に及び、北朝鮮はいつでも米軍基地のあるグアムを攻撃できると息まいている。
写真)北朝鮮の弾道ミサイル「火星12」出典)CSIS Missile Defense Project
アメリカも2年後位には、北が核弾頭を搭載したミサイルをアメリカ本土まで飛ばせるようになるのではないかと懸念し始めている。9月12日、国連安保理で中・露を含め北朝鮮への制裁強化案を全会一致で決めたものの、北はこれを無視。今や金正恩朝鮮労働党委員長を説得できる術を見失ってしまったかのようだ。
9月3日の6回目の核実験による地震はマグニチュード(M)6.1。昨年9月の5回目(M5.3)に比べ、そのエネルギー量は少なくとも10倍程度はあり、過去最大で「水爆の可能性」との見方もあった。
とにかく北朝鮮は、持てる力を全て核開発に賭けており、アメリカと対等の立場で交渉を持ちたいのだ。北朝鮮の要求は、アメリカに北の核開発を正式に認めさせ、北への経済制裁を中止し、北の体制転覆の試みを止める事を約束させることだ。
韓国に外国人188万人、日本人4万人
むろんアメリカの軍事力からすれば、北への攻撃は容易いことで「世界がみたこともないような炎と怒りに直面するだろう」と脅してはいる。しかし、在韓米軍に2万8000人の駐留兵がいるほか、ソウル在住の外国人は188万人(うち中国人が52.2%、日本人は約4万人)とされ、北朝鮮が有事の際、韓国に攻めてきた時に避難する方法などは検討されていない。
したがって、事実上アメリカが北を攻撃し南北間で戦争となれば在韓外国人の避難は極めて難しいことになる。日本政府は最近の緊張関係をみて日本人の避難などを検討するといわれているようだが事実上は不可能に近いだろう。
写真)米韓合同訓練 韓国軍の強襲水陸両用車 2017年9月13日 出典)flickr U.S. Pacific Command
結局は、北朝鮮とは対話外交で戦争を避けるしかないが、北朝鮮への制裁を巡ってもアメリカと中国、ロシアとの間でなかなか方針が一致できないのが実情なのだ。
北のミサイルは10分以内に日本へ
安倍首相は北への対処方針はアメリカと完全に一致しているとし、日本の安全を強調するが、北がミサイルを発射すれば10分内外で日本に到着(グアムまでは14分)し、現代の技術で到着前に撃墜することは殆んど不可能とされている。アメリカが守ってくれるといってもミサイル戦争になれば、日本が独自に対応できる術はないといっても過言ではない。
写真)防衛省に配備されているPAC-3 出典)防衛省HP
先日、北朝鮮は北海道沖を通過するミサイルを発射したが、「日本は迎撃しなかった」と政府筋は弁明している。迎撃しなかったというより即時には航跡もわからず迎撃できなかったというのが実情だろう。
一番確実な迎撃法は、敵の発射前に相手基地を攻撃することだが、日本としては相手が確実に日本を攻撃してくるという証拠を掴むなど、いくつもの要件が揃わないと“先制攻撃”となり「核を持たない、作らない、持ち込まない」という日本の国是にふれることになってしまう。先制攻撃を行なうにしてもアメリカにやってもらうしかないわけだ。
米朝の直接交渉も
北朝鮮が8月29日に発射した弾道ミサイルはグアムをいつでも攻撃できると誇示する狙いがあったとみられている。アメリカの報復を避けるため意図的に方向と距離を調整したようで、5月に成功させた中距離弾道ミサイルは「火星12」だったと推測されている。
液体燃料を使った一段式ミサイルで発射後は高度約2100キロに達し、約800キロ飛行して朝鮮半島の東約400キロの日本海に落ちたが、通常角度で発射すれば射程は5000キロに達するとされる。
この後、北朝鮮は「我々は核強国であり、ICBM保有国として北朝鮮を侵害する敵を物理的に征圧できる力を持った」と主張。アメリカが危険な米韓合同演習などで挑発を行なえば「報復と懲罰を受けることを覚悟せよ」と警告している。
ただわかりにくいのは、北が対抗できる強力な手段を持ったとしても、その最終的な狙いは何なのかということだ。本格的戦争になれば北の敗北は必至なのだから、北もやはりアメリカと直接交渉して有利な生き残り手段をみつけたいということになるのだろうか。
核の使用は国の破滅へ
日本は戦争手段がとれないので、東南アジアなどと組んで北朝鮮を対話外交の輪に引っ張り込む地道な努力を続けるしかないだろう。
アメリカは直接攻撃手段ではなく“中立化(暗殺)”などの手法も模索しているといわれるが、たとえ成功しても朝鮮半島が混乱に陥れば、中国など関係各国に多大な影響を与えることになる。
トランプ政権はシリアに爆撃を敢行したが、シリアには核がないとみたからやれたのだろう。中東の大国イランの核開発を執拗に阻止してきたのもイランが核を持てば中東の情勢は一変してしまうからなのだ。核は有効な外交・戦争手段になりうるだろうが、一歩間違えると国や地域を破壊して元も子もなくしてしまうことに世界はもっと関心を寄せるべきだろう。
それにしても全世界が一致して制裁を突きつけているのに、依然動ずる気配をみせない北朝鮮と金正恩委員長の神経はどうなっているのだろうと考えざるを得ない。
【参考資料】
国連安全保障理事会の制裁強化決議のポイント
・北朝鮮への年間原油輸出に上限を設定。過去12ヵ月の輸出量の超過を禁じる
・石油精製品の供給や輸出を年間計200万バレルに制限、加盟国に報告を求める
・北朝鮮への天然ガス液の輸出禁止
・北朝鮮からの繊維禁輸や出稼ぎ労働者への就労許可付与を禁止
・金正恩朝鮮労働党委員長を対象とした資産凍結や海外渡航禁止は見送り
トップ画像:国連総会で演説する米トランプ大統領 出典)UN Photo/Cia Pak
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この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト
嶌信彦ジャーナリスト
慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。
現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。
2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。