実社会からかい離 中国共産党大会
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#44(2017年10月30日-11月5日)
【まとめ】
・中国共産党大会、習近平総書記が「党の中心」であることを再確認して終了。
・採択された党規約は不明瞭で、実社会からかい離している。
・常務委員に就任した外交専門家王滬寧氏に注目。
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先週24日、中国共産党党大会が終わった。今回のテーマは、「小康社会(ややゆとりある社会)の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利をかち取ろう」だったそうだ。このスローガンを見て、1960年代と70年代初頭、日本全国の大学で見られた「立て看板」の文句を思い出した。
党大会では、習近平総書記が「党の中心」であることを再確認し、党規約に「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、3つの代表、科学的発展観」に続く6番目の指導思想として「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が明記されたという。何か凄いことが起きたに違いない。
▲写真 習近平中国国家首席 2013年 flickr:Michel Temer
大変お目出度いことなのだろうが、浅学菲才の筆者にはこの6つの指導思想のうち辛うじて中身を知っているのはマルクス・レーニン主義だけ。申し訳ないが、毛沢東思想と鄧小平理論の具体的内容もうろ覚えだ。そもそも、これがなぜ現代中国の指導思想なのかすら見当も付かない。皆さんはご存知か。
この21世紀の時代に、中国共産党の英知を集めた党大会で採択された党規約が、1960-70年代の日本の大学で左翼学生が書いた陳腐なスローガンと同じくらい、不明瞭、難解かつ実社会から遊離しており、人々の心に殆ど響かない内容でしかないこと自体、やはり驚くべき、いや、憂うべきではないのか。
公式文書には、習総書記が唱えてきた一帯一路、中国の夢、人類運命共同体、四つの全面、四つの意識、党領導一切、「強国」「強軍」といったフレーズなども盛り込まれたそうだ。ところで中国の一般国民はこれらを一体どこまで正確に理解しているのだろう。いずれにせよ、筆者の想像を超えている。
仮に、日本の自民党総裁がかくも内容のない概念を羅列し、それを「安倍晋三による新時代の日本の特色ある自由民主主義思想」として学習するよう強制したらどうなるか。恐らく、自民党は勿論、霞が関の官僚からマスメディアの記者まで、ハチの巣をつついたような大騒ぎになるに違いない。
中国共産党の党員数は公表8900万人だが、5年前は8000万位だったと記憶する。ということは、誰だか知らないが、この5年で一千万人近く増えたということ。そのうち党大会に参加できるのは約2300人。彼らの投票で中央委員約200名が選ばれ、 更に、この中央委員の中から25名の政治局員が選ばれる。
その中から25日に7人の政治局常務委員が選ばれたが、英語ではこの7人を「チャイナセブン」とは呼ばない。筆者の知る限り、英語でChina Sevenという言い方はない。China Sevenでは意味が通らないからだ。チャイナセブンは日本語であり、恐らく英語があまり上手でない人が使い始めたに違いない。
今回筆者が最も注目するのが王滬寧だ。彼の専門は国際関係、内政や地方行政の実務経験は殆どない。過去外交専門家が常務委員に就任した例は記憶がない。それどころか、外交部長はもちろん、副首相級の国務委員ですら、従来は党内序列で2ランク下の中央委員に過ぎなかった。これは何を意味するのか。
〇欧州・ロシア
30日にドイツの新連立政府作りの議論が再開される。そういえば、選挙は終わったのに、まだ連立の基本的枠組ができていないらしい。例の右派政党AfDの取り扱いで揉めているのか。しかし、揉めて当然だろう。他の国ならともかく、あのドイツで反EU勢力が出て来れば、欧州は本当に変ってしまうだろうからだ。
▲写真 独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」フラウケ・ペトリー党首 Photo by Olaf Kosinsky
〇東アジア・大洋州
31日から11月2日までにはロシア首相が訪中する。4日から始まるトランプ氏アジア歴訪の直前だから実に興味深い。しかし、同氏が12日も自宅を離れるのも珍しい。既に東アジア首脳会議には不参加という話はあるが、もしかしたら、訪問を更に早めに切り上げるかもしれない。これが不確実性というものか。
▲写真 プーチン露大統領と習近平中国国家主席 BRICS Summit 2017年9月4日 出典:露大統領府
〇南北アメリカ
米国の特別検察官がトランプ陣営のポール・マナフォート元選対本部長ら2人を起訴した。勿論、これで終わりではない。全てはこれから始まるのだ。1972年のウォーターゲート事件でも、最終的にニクソン大統領が辞任したのは74年の8月8日だった。恐らく、これから数カ月か一年程度は、スキャンダル報道が続くだろう。トランプ氏はこれに耐えられるのかがポイントだ。
▲写真 ポール・マナフォート元トランプ自寧選対本部長 flickr:Disney | ABC Television Group
〇中東・アフリカ
11月2日はユダヤ人にHomelandを認めたあの有名なバルフォア宣言の百周年記念日だ。パレスチナ自治政府は英国政府と世界中の英国大使館に対し抗議運動を計画しているという。そうか、あれからもう100年経ったのか。その1日前、ロシア大統領がイランを訪問し、イランとアゼルバイジャンの大統領に会う。
▲写真 英国外務大臣アーサー・バルフォアとバルフォア宣言
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:中国共産党党大会 出典/美国之音英语新闻
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。