.国際  投稿日:2017/9/13

対北制裁、またもや空砲 中国の策謀

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田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)

「田村秀男の“経済が告げる”」

【まとめ】

・対北朝鮮追加制裁は空砲に終わる。中国の金融支援が背後に。

・中国からの対北金融ルートの遮断が必須。

・しかし、中国大手銀行のドル取引停止は米経済にも打撃の為結局出来ない。

 

 

 北朝鮮による6回目の核実験を受け、国連安全保障理事会は9月11日午後(日本時間12日午前)、北朝鮮への新たな制裁決議案を全会一致で採択した。

 

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▲写真  対北朝鮮制裁案を決議する国連安全保障理事会 2017年9月11日    出典)UN News Centre

原油や石油製品の対北輸出に上限を設けたことや、国連加盟国による北からの繊維製品輸入を禁止したことから、日米の外交当局は「大幅な制裁強化」と自賛するが、だまされてはいけない。これまでの度重なる国連の対北制裁と同様、空砲に終わる可能性がある。なぜなのか。

韓国政府の調査などによれば、北朝鮮の国内総生産(GDP)は年間300億~400億ドルで、軍事支出は約100億ドルに上る。ミサイルや核開発を支えるのは輸出収入による外貨で、中国向け輸出が全輸出の約9割を占める。

中国の貿易統計によれば、北からの輸入は2016年で27億ドルである。この他に、中国などへの出稼ぎ者からピンハネする分が年間約10億ドルという。8月初旬、国連安保理は、北からの石炭、鉄鉱石の輸入禁止などを決議した。その時、トランプ氏は「制裁効果は10億ドル相当」とツィッターで称賛したが、金正恩氏の返事は6回目の核実験だ。

 従来の経済制裁には抜け穴がある。それを利用する元凶は、北にとって最大の貿易相手、朝鮮戦争で「血の友誼」を交わした中国である。北朝鮮は制裁によって輸出が減ると外貨収入が落ち込むので、軍用、民生用を問わず、輸入に支障をきたすはずだ。ところが、北の対中輸入(中国の対北輸出)が急増し続けている(グラフ1参照)。なぜ、可能か。答えは簡単、中国の大手銀行が信用供与、つまり金融協力しているからだ。

グラフ1
グラフ1

 中国銀行など大手国有商業銀行が北に協力していることは、米財務省がオバマ政権時代から綿密に調べ上げてきた。国連事務局も実態を把握している。ならば、中国からの対北金融ルートを遮断すれば、確実に制裁の実を挙げられる。そのためには、米政府が中国銀行など大手銀行に対し、ドル取引禁止という制裁を加えればよい。

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▲ 写真  中国銀行本社ビル 北京

世界の基軸通貨ドルを入手できなくなれば、中国の金融機関はたちまち干上がるので、米側の要求に応じざるをえなくなるはずだ。ところが、オバマ前政権はもとより、トランプ政権もまた逡巡している。

 北の核実験を受けた3日には、トランプ氏がツィッターで「(中国の対北圧力は)ほとんど成果を上げなかった」、「北朝鮮とビジネスをする全ての国との貿易停止を検討している」とぶち上げた。

(トランプ大統領のツイート)

北とビジネス取引する最大の国とは、もちろん中国のことである。ムニューシン財務長官は大統領の指示を受けて「北朝鮮との取引を望む者は米国と取引できないようにする」と言明し、北に協力する中国企業リストを作成中だが、ワシントンの関係筋からは「銀行大手は対象外」と聞く。なぜか。

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▲ 写真 ムニューシン米財務長官 出典)米財務省

大手銀行が国際金融市場から締め出されると、中国で信用不安が起きかねず、もとよりバブルにまみれた金融市場が震撼する。習近平政権は激しく反発し、米企業に報復しかねない。アップルなどは中国が最大の市場であり、トランプ政権が6月以来検討中の、通商法301条での対中制裁にも米産業界は反対している。

米企業や消費者も中国からの輸入に依存している。「米経済に打撃を与えることなく中国との貿易を大幅に制限することはほぼ不可能だ」(5日付け米ウォールストリート・ジャーナル紙電子版)。

 では、11日の国連制裁決議の効力はどうか。石油製品上限枠、年間200万バレルの設定を例にとろう。対北輸出のほぼ全量が中国からの輸出である。中国の輸出入管理・税関事務を行う中国海関総署統計をもとに作成したのがグラフ2である。

グラフ2

グラフ2

パイプラインを通じた中国からの対北原油供給は同総署の管轄外だが、石油製品についてはデータを把握している。それによると、習近平政権下の中国は対北石油製品輸出を増やし続け、2016年年間で200万バレルの水準とし、2年半で倍増させた。そして、ことしに入って減らし、7月までの1年間では158万バレルに落ち込んでいる。

すると、今回の「制裁」による上限を大きく下回っているのだから、今後中国は制裁破りの非難を浴びることなく、北向けにガソリンや重油、経由の輸出を増やせることになる。国連制裁決議は原油の対北輸出を過去12カ月間合計量、即ち現状維持としており、削減されるわけではない。

 習近平政権は金正恩北朝鮮労働党委員長に対し、「米国の石油禁輸案を引っ込めさせたし、従来通り供給できるようにした」とするメッセージを発したことになる。朝鮮戦争(1950年6月- 1953年7月)で北と「血の友誼」を交わした中国共産党の習近平総書記は10月の党大会で、「対米譲歩」の批判を交わし、権力基盤をさらに固めるわけだ。

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▲ 写真 中国習近平国家主席夫妻と米トランプ大統領夫妻 ホワイトハウス 2017年4月6日 flickr : The White House

トランプ政権はまたもや、まんまと、習政権の策謀に引っかかったわけだが、 これまでの安保理の制裁決議で石炭などの輸入を全面禁止しており、繊維製品を禁輸対象としたことで、米国のヘイリー国連大使は「北朝鮮の輸出額の9割以上が禁輸対象となった」と強調した。しかし、中国などを経由した迂回輸出ルートはいくらでもあり、実効のほどは疑わしい。

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▲ 写真 ニッキー・ヘイリー米国連大使 出典)Office of the President-elect

繰り返すが、対北制裁の最大の障害になっているのは中国だ。グラフが示すように、中国は石油製品と同様、鉄鋼製品も対北輸出を増やしてきた。石炭、そして今回の繊維のように、国連がいくら輸入禁止を決議しても、北は外貨の制約から免れている。北が輸入を増やせるのは、中国から信用を供与されているからで、中国の対北金融ルートを遮断しない限り、いかなる制裁も不発に終わるのだ。

 

(この記事には複数の写真が含まれています。サイトによって全て表示されないことがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=36036の記事をお読みください)

トップ画像:「中朝友誼(ゆうぎ)橋」中華人民共和国遼寧(りょうねい)省丹東市と朝鮮民主主義人民共和国平安北道(ピョンアンブクどう)新義州市(シニジュし)を結ぶ。中国側正式名称:鴨緑江(おうりょくこう)大橋  出典) flickr : photo by Prince Roy

 

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人
田村秀男産経新聞特別記者・編集委員

1946年高知県生まれ

1970年早稲田大学政治経済学部経済学科卒、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て2006年12月に産経新聞社に移籍、現在に至る。

その他、早稲田大学大学院経済学研究科講師、早稲田大学中野エクステンション・スクール講師を兼務。

主な著書:『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む日米中関係』(扶桑社新書)、『世界はいつまでドルを支え続けるか』(同)、『「待ったなし!」日本経済』(フォレスト出版)、『人民元が基軸通貨になる日』(PHP出版)、『財務省「オオカミ少年」論』(産経新聞出版)、「日本建替論」(共著、藤原書店)、『反逆の日本経済学』(マガジンランド)、『日経新聞の真実』(光文社新書)、『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)、「日本ダメだ論の正体」(共著、マガジンランド社)、「消費税増税の黒いシナリオ」(幻冬舎ルネッサンス新書)、「人民元の正体」(マガジンランド)、「中国経済はどこまで死んだか」(共著、産経新聞出版)、「世界はこう動く 国内編」(長谷川慶太郎氏と共著、徳間書店)、「世界はこう動く 国際編」(同)

田村秀男

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