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国際  投稿日:2017/12/19

ユネスコ神話崩壊「国連幻想」棄てよ

パリユネスコ
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                古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ政権のエルサレム首都宣言は、米ユネスコ脱退宣言と密接に絡んでいる。

・ユネスコは一部加盟国の意向を偏重し、政治的な動向を再三とってきた。

・「世界記憶遺産」に中国が申請した「南京大虐殺文書」が登録されるなどの被害を日本も受けている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真の説明と出典のみ表示されることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37440でお読みください。】

 

アメリカのトランプ政権のエルサレム首都宣言は全世界に波紋を広げた。おおかたは反対の対応である。だが当のアメリカは揺らがない。国内では超党派のコンセンサスでトランプ大統領の措置を支持する。

ネタニヤフとトランプ

写真)ネタニヤフ イスラエル首相とトランプ米大統領 2017年5月23日 出典)U.S. Embassy Tel Aviv

このエルサレム首都宣言は10月のアメリカ政府のユネスコ(国連教育科学文化機関)からの脱退宣言とも密接にからんでいた。アメリカはユネスコがイスラエルとパレスチナとの対立であまりに反イスラエルの立場をとりすぎるとの判断による脱退の宣言だったからだ。イスラエル対パレスチナの対立構図に対してイスラエル傾斜の立場をとれば、いや中立の立場をとっても、ユネスコとはどうしても正面衝突となる。ユネスコの国際機関としての中立性に明らかに欠陥があるからだ。

さてそんな現状を契機にユネスコという国連組織のあり方を改めて検証してみよう。日本にとっても重要な課題である。ユネスコはかねてから一部の加盟国の意向を偏重し、政治的な動向を再三とってきた問題だらけの国連機関であり、日本も被害を受けてきたからだ。

トランプ政権はユネスコから2018年末に脱退する方針を公式決定として今年10月に発表した。具体的な理由としてはユネスコの「反イスラエル傾向」をあげていた。国連ではアメリカ政府代表のニッキ―・ヘイリー大使が次のように言明していた。

ヘイリー米国連大使とリブリン大統領

写真)ヘイリー米国連大使とルーベン・リブリン イスラエル大統領 2017年6月7日 出典)Spokesperson unit of the President of Israel Photo by Mark Nayman

「ユネスコが『世界遺産』の名の下に、ユダヤの聖地をもパレスチナだけの聖地だと認定したことは、政治的な扇動だ」

「ユネスコ傘下の人権委員会にシリアを加盟させたことは自国内の平和的な運動参加者を大量に殺害するアサド政権に『人権擁護』の名を与える愚かな行為だ」

いずれも激しい糾弾だった。

ユネスコは今年7月にパレスチナ自治区の「ヘブロン旧市街」を世界遺産に登録した。結果としてイスラエルも同市街をユダヤの聖地とし「神殿の丘」と呼んでいることを無視した。ヘイリー大使はこの世界遺産の決定を「反イスラエルの政治的な扇動」と非難したのだ。

ヘブロン旧市街

写真)ヘブロン旧市街 出典)UNESCO

しかしアメリカ政府はユネスコからの脱退の後も「非加盟のオブザーバー」という地位を保ち、ユネスコの今後の機構改革などには提言をしていくという。ただしユネスコへの世界最大のアメリカ政府の分担金はもう払わないという。

アメリカ政府はオバマ政権時代の2010年から分担金の支払いを停止してきた。アメリカが主権国家とは認めないパレスチナをユネスコが完全メンバーとして加盟させたことに抗議したためだった。その分担金の遅延分が合計5億5千万ドルにも達していたが、それがもう払われないこととなる。

こうした動きも歴史の皮肉である。ユネスコはアメリカの主導で創設された組織だからだ。ユネスコは各種の国連機関の中でも経済社会理事会の下部機関、その名称どおり、教育、科学、文化の発展と推進を目的とする。その広範な活動の中でも最近、国際的な関心をとくに集めてきたのは「世界遺産」や「世界記憶遺産」の指定制度である。この制度には日本も深くからみ、影響を受けるようになった。

ユネスコは国連本体の創設から1年ほど後の1946年11月に発足した。その設立のためにはアメリカが先頭に立った。現在の加盟国は195ヵ国、そのうち分担金の最大の拠出国はアメリカで、金額全体の22%、第2位が日本で10%ほどとなってきた。だからそのアメリカの離脱は、国連全体にも大きな衝撃波を与えた。

トランプ政権のその動きは「アメリカ第一主義」によるグローバリズムへの反発という乱暴な行動にも映るかもしれない。だがアメリカのユネスコへの不満にはそれなりの歴史や背景がある。だから今回の離脱にも国内では意外なほど理解が示される。

トランプ政権には批判的な民主党シンクタンクのブルッキングス研究所の国連問題専門家ジョン・マッカーサー研究員も「今回のトランプ政権のユネスコ離脱はきわめて現実的な措置であり、政治的な動機だけからの派手な示威ではない」と支持を表明した。

保守系の大手紙ウォールストリート・ジャーナル社説も10月中旬の「アメリカは反イスラエルの国連機関を財政支援すべきではない」という見出しの社説でトランプ政権の離脱決定への賛成を表明した。同社説は以下の骨子を述べていた。

「ユネスコは何十年もにわたり、文化機関を装ってきたが、実は政治機関であり、歴史的にもソ連が長年、ユネスコで反米の教育プログラムなどを運営してきた。ユネスコ事務局長のイリナ・ボゴバ女史はブルガリアの共産党員だった過去があり、最近もロシアのプーチン大統領の支援を受けて、国連事務総長選に出た」  

ボコバ前ユネスコ事務局長

写真)イリナ・ボコバ前ユネスコ事務局長 Flickr Chatham House

「ボゴバ事務局長は2011年にパレスチナ統治機構をアメリカやイスラエルの反対を無視してユネスコの加盟国として受け入れた。ユネスコは反イスラエルの偏見が絶えず、基本的な内部改革が必要であり、そのためにも今回のトランプ政権の離脱の決定は正しい」

ただしボゴバ氏は10年の任期がちょうどこの10月末で切れて、次期事務局長にはフランスのオードレ・アズレ元文化通信相の就任が決まった。だがアメリカの離脱の状況には変わりはない。

アズレユネスコ事務局長

写真)オードレ・アズレ ユネスコ事務局長 出典)Un site du ministère de la Culture

アメリカには年来、国連自体への批判や懐疑の歴史がある。とくに保守派の間には国民の選挙で選ばれる民主主義の主権国家の指導者と異なり、単に任命で選ばれる国連のような国際機関の幹部への不信が強い。その不信は反米傾向の強い共産圏や第三世界の代表が多数決で牛耳る国連の左傾化によりさらに強められてきた。

アメリカはとくにユネスコと長年、戦ってきた。レーガン政権時代の1984年にはユネスコを脱退し、2003年まで復帰しなかったのだ。この時の原因はセネガル出身のアマドゥ・マハタル・ムボウという人物がユネスコ事務局長に選ばれ、13年間も在任して、反欧米の過激な政治姿勢をとり、縁故や腐敗をも極めたことだった。

ムボウ元ユネスコ事務局長

写真)アマドゥ・マハタル・ムボウ元ユネスコ事務局長 flickr Serigne Diagne

日本もこのいわくつきのユネスコの被害者といえる。2015年にユネスコの運営する「世界記憶遺産」に中国が申請した「南京大虐殺文書」が登録されたからだ。「文書」の内容はまったく一方的な虚構が多かった。その後には韓国主導で慰安婦についての記録も同様な申請の動きがあった。

だが日本には長年、国連全体に対する無条件の信仰が強く、ユネスコに対しても甘い認識が大きかった。この点の日本の状態は国連幻想ともいえよう。現実を見ずに、ひたすら国連機関を崇高な存在とあがめる傾向である。この幻想のシンボルは東京の青山にそびえる国連大学の威容だともいえよう。

国連大学

写真)国連大学 出典)Wikimedia

国連大学も実はユネスコ傘下の組織なのだ。だがこの施設は大学生もいなければ、教授も講義もない。高等教育の機能はなにもなく、国連の枠内で動く特定の研究者や活動家たちが特定の学術研究をするだけの機能しかない。そんな機関を日本政府が例外的な好条件で招待して開設したのだ。日本にとっての実益はなにもないとさえいえよう。

トランプ政権のユネスコ離脱はこの種の特殊な国連機関の特殊な政治偏向を改めて立証し、日本の国連幻想の錯誤を印象づけることともなりそうだ。

 

トップ画像:ユネスコ本部 パリ 出典)UN News Centre

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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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