平昌五輪 日米韓連携弱体化狙う北朝鮮
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー2018#06 2018年2月5-11日
【まとめ】
・平昌五輪前に対北宥和策に動く韓国、日米韓の連携弱体化も。
・北朝鮮の楽団が9日から韓国で公演を行い12日に帰国。
・トランプ氏、下院情報委員長が作成したロシアゲートに関する司法省とFBIの動きを記す極秘報告書公表。
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今週9日にいよいよ平昌五輪が始まる。選手や役員よりはるかに多い「宣伝応援団」を送りこむ一方、開会前日に軍事パレードを予定しているのだから、北朝鮮はやりたい放題だ。是が非でもオリンピックを成功させたい韓国政府の足元を完全に見ているのだろう。当面の目的は燃料か、物資か、現金か。筆者にはよく分からない。
写真)平昌五輪トーチリレーイベント
いずれにせよ、韓国政府は完全に浮足立っている。北朝鮮が細かいことに難癖をつける毎に、韓国はより多くの譲歩を強いられているはずだ。今更五輪参加をキャンセルされては困るからだろう。報道されていない分野で、一体どのような南北取引が行われているのか。現時点では詳細を知る由もない。
かかる韓国の姿勢を最も苦々しく思っているのは米国だ。北朝鮮の核武装化を目前にして、米韓の連携に水を差すような動きを躊躇わない同盟国・韓国を米国はどう評価するのだろう。今の韓国は反共同盟という「基軸主義」よりも、対北宥和策と対中「事大主義」という「均衡策」にしか関心がないのか。
今週末の開会式から一連の首脳会談までの動きは要注意だ。北朝鮮は事実上の「制裁破り」を韓国に強いようとしている。このままでは日米韓の連携は弱体化していくだろう。五輪後、核をめぐる危機は必ず再発する。この段階で北朝鮮に「米国は何もできない」と思わせることの危険は計り知れない。
一方、国内では日曜日の名護市長選挙の結果にも注目が集まった。20年前、日米安保の担当課長だった筆者にとって、今回の結果は実に感慨深い。過去何度か辺野古地区を訪れたが、この8年間街並みはほとんど変わっていない。当然だろう、補助金なしに住民の生活向上を図れる自治体は限られるからだ。
写真)名護市長選挙で当選した渡具知武豊氏
出典)渡具知武豊氏ウェブサイト
写真)辺野古の街並み
出典)Google map
過去20年間、紆余曲折を経て、最終的に首相が決定し、知事が受け入れ、最高裁が適法とした計画がある。これを公正かつ透明度の高い民主的な投票で勝利した新市長が実行するのは極めて民主的だ。それ以上でも以下でもない。安全保障は中央政府の責任、その枠内で住民を守るのが自治体の首長である。
〇欧州・ロシア
5日にトルコ大統領が訪伊、イタリア政府首脳やローマ法王と会談する。同日ロンドンでは英国のEU離脱につき閣僚級の会合が開かれる。まだこの問題を議論しているのかという気もするが、それだけ複雑な問題であることが良く判るだろう。この種の会合は「粘り腰」の欧州諸国が最も得意とするところだ。
写真)トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領
出典)photo by Пресс-служба Президента Российской Федерации
〇東アジア・大洋州
6日に日露外務次官協議が行われる。同日には米副大統領が訪日し、その後訪韓して平昌五輪開会式に出席する。7-8日にはオランダ国王夫妻が訪中する。五輪関係では、北朝鮮の楽団が9日から韓国で公演を行い12日に帰国するそうだが、韓国大統領はこれで本当に意味のある南北対話が始まるとでも思っているのだろうか。
〇中東・アフリカ
今週の中東は静かだ。インド首相が10日からアラブ首長国連邦、オマーンとパレスチナを訪問する。インドといえば、最近イスラエルとの関係強化が目立つが、なかなかどうして、インド洋からアラビア海に続くシーレーンの一部であるアラビア半島南部の二カ国を訪問するなんて、色々考えているのだなあと思う。
写真)インドのナレンドラ・モディ首相
出典)Narendra Modi – official Flickr account
〇南北アメリカ
先週、トランプ氏は下院情報委員長(共和党)が作成したロシアゲートに関する司法省とFBIの動きを記す極秘報告書を公表した。これで自分の潔白が証明されたというが、良く判らない。同文書は、2016年の大統領選中に民主党が資金を提供して作成したトランプ氏の言動に関する報告書を元にFBIが捜査を始めた可能性を指摘する。
これでも判りにくいのだが、要するにトランプ政権は、共和党の委員長が司法省とFBIの政治的中立性を疑わせる極秘資料を、司法関係者の批判にもかかわらず公開したのだ。恐らく目的は、現在のモラー特別検察官の捜査が中立性を欠いた政治的動機に基づくものというイメージを世間に与えたいのだろう。
写真)ロバート・モラー特別検察官
出典)photo by Federal Bureau of Investigation
随分手の込んだやり方だが、所詮は共和党の委員長が作った政治的色彩の強い文書、これで新たな事実が明らかになった訳でもない。この種の「子供騙し」とは言わないが、「頭隠して尻隠さず」的なパーフォーマンスを続けてても、根本的な問題は解決しない。この種の出来事が毎週起こるなんて、今のワシントンはちょっと異常だ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。今年も、いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
TOP画像:平昌五輪スタジアム 出典)pyeongchang2018.com
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。