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.国際  投稿日:2019/10/1

どうなるトランプ弾劾の行方


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#40」

2019年9月30日-10月6日

【まとめ】

・トランプ大統領のウクライナ大統領への汚職捜査要請が波紋。

・米中関係が良くならない間は、日本にとって対中改善の好機。

・日韓関係を最低限維持と北東アジアでの核抑止等が求められる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48201でお読み下さい。】

 

先週は先々週の強行軍外国出張の疲れがどっと出てしまったが、残念ながら国際情勢は休んでくれない。日本のマスコミは国連での米韓首脳会談と日米首脳会談に関心があったようだが、米国メディアの関心は専ら、ワシントンポスト紙が報じた7月25日のトランプ氏とウクライナ大統領との電話会談の内容だったようだ。

▲写真 ウォロディミル・ゼレンスキー ウクライナ大統領 出典:Wikimedia Commons

同報道によれば、米国の現職大統領が、最大の政敵バイデン親子の汚職を捜査するよう、ウクライナ大統領に電話で要請したという。事件の発端は内部告発、電話会談の内容を知った告発者が現職大統領の「権限濫用」を申し立てた。これを受けて民主党が多数を占める米下院でも「大統領弾劾のための調査」が正式に始まった。

それにしてもトランプ氏は検察組織を一体何だと思っているのだろう。司法当局は大統領の犬ではない。敢えて言えば、彼らは「法律に忠実な犬」である。今週の日英のコラムは米国と韓国の「司法権の独立」を比較し、そのあり方と実態について書いた。結構面白い視点で書けたので、お時間があればご一読願いたい。

先週はキヤノングローバル戦略研究所での筆者の講演会の中で行った政策提言を今週ご紹介するとお約束した。時間の関係であまり多くは提言できなかったのだが、以下に講演当日、中国韓国北朝鮮、欧州、ロシア、イラン、米国に関して行った状況認識と政策提言を簡単にご紹介することにしよう。

 

〇 アジア

中国:大国化は不可避だが、その目的は世界制覇というより、アヘン戦争の歴史的屈辱の克服にある。具体的には旧中華勢力圏から西洋勢力(今は在日、在韓米軍)を駆逐することだろう。西太平洋での米中軍事バランスは変化するだろうが、中国の科学技術と一帯一路がいつまで持続可能かは未知数だ。

政策的には、日中関係は米中の従属変数であり、独立変数にはなり得ない。だが、米中対立は20年は続くだろうから、米中関係が良くならない間は、日本にとって対中改善の好機だ。これと同時に、中国に更なる現状変更を認めぬための我が国の抑止力の整備が重要となる。

▲写真 安倍首相と習主席 出典:首相官邸

 

朝鮮半島:冷戦構造の変化、北の核武装、中国台頭、米国迷走により韓国は伝統的な「均衡外交」に回帰しつつある。一方、中ソを失った1990年代より北朝鮮は国体維持・生き残りのため核兵器開発に邁進し、北京・東京を狙う中距離核弾道ミサイルの実戦配備が時間の問題となりつつある。

政策的には、北中露との関係改善と米韓同盟維持は両立可能だと信じる韓国を含む「米韓日連携」の維持は困難である。韓国がその新たな「均衡」政策により中朝側に過度に傾斜しないよう日韓関係を最低限維持する必要あり。北朝鮮の核に対しては、北東アジアでの核抑止強化と非核三原則の部分的見直しを議論すべし。

 

〇 欧州・ロシア

冷戦終了後、旧東欧諸国のEU、NATO加盟により欧州ロシア関係が悪化し、政治統合を目指すEUの限界が露呈した。英のEU離脱、各国の民族主義、移民問題などで欧州は「内向き」になりつつある。対露関係で日本は北方領土の「時効停止」を図るべく対話を継続する一方、欧州諸国には東アジア問題への更なる関与を働き掛ける。

▲写真 プーチン大統領 出典:ロシア大統領府

 

〇 中東

イラン:79年のイラン革命、91年の湾岸戦争、03年のイラク戦争と11年のシリア内戦を経て中東湾岸地域には「力の空白」が生まれ、イランは影響力拡大に成功。湾岸での国際的対立の本質は宗教ではなく、伝統的な民族間の競争だ。対イラン友好も大事だが、湾岸安定は最優先、シーレーン維持のため更なる防衛努力が必要だ。

 

〇 南北アメリカ

米指導力に翳りが見えつつあり、新孤立主義のトランプ政権はダークサイド現象を助長している。但し、米国の国力は低下していない。低下したのは米国の国力を活用する米政治家の能力だ。トランプ政治はオバマ大統領誕生という歴史的事件の反作用であり、米共和党の伝統的な保守理念(国際主義・自由主義)は変質しつつある。

 

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:トランプ大統領 出典:The White House


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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