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.国際  投稿日:2018/3/23

米新国務長官ポンぺオ氏とは?


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

元CIA長官マイク・ポンぺオ氏が新国務長官に任命された。

トランプ氏に長く信頼されている、共和党超保守派議員。

議会の民主党リベラル派などからの反発も激しくなると予測される。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39119でお読みください。】

 

トランプ大統領が新国務長官に任命したマイク・ポンぺオ氏とはどんな人物なのか。同氏がトランプ政権発足当初から中央情報局(CIA)長官を務め、同大統領の信が厚かったとされるが、そうした人物がアメリカ外交の顔となる国務長官を務めると、どうなるのか。

△マイク・ポンペオ氏任命の際のドナルド・トランプ大統領Twitter(2018年3月13日)

 

アメリカの主要メディアもこれまでポンぺオ氏の過去の実績に光を当てることは少なかった。だが同時にポンぺオ氏を批判することも、少なかった。反トランプ志向を鮮明にする主要メディアはトランプ大統領はもちろんその主要閣僚や側近を非難することは頻繁である。

だがポンぺオ氏がやり玉にあがるケースが多くなかったのは、同氏の手堅い活動、地味な抑制気味の態度、さらにはCIA長官という特殊な任務、などのせいだろう。しかしこんごは国務長官というトランプ外交のトップとなれば、厳しい精査の視線を浴びることは確実である。

トランプ政権のこの14ヵ月を通じると、ポンぺオ氏はトランプ大統領の信頼が最も長く続いてきた閣僚級要人の一人だといえる。CIA長官として毎朝、世界情勢を大統領に直接、報告することで顔を合わせ、対外問題で協議する関係が着実に続いてきた。

ポンぺオ氏はさらに北朝鮮、中国、シリア、イランなどトランプ政権にとっての対外安全保障上の課題についても、トランプ大統領自身の思考に沿った発言が多かった。北朝鮮の核の脅威については軍事的手段の効用をよく説いて、同大統領のハードな側面を支援する形となった。だがそれ以前にトランプ氏はポンぺオ氏の下院議員時代6年間の実績をとくに気に入っていたという。

共和党でも超保守派とされるポンぺオ議員は下院情報委員会の枢要メンバーとして活躍し、オバマ政権時代のリビアのベンガジでのアメリカ大使殺害テロでのヒラリー・クリントン国務長官(当時)の対応を手厳しく非難した。オバマ政権のイランとの核合意にも一貫して強く反対した。グアンタナモ基地の重要テロ容疑者収容所の閉鎖にも反対、イスラム原理主義テロリストへのオバマ政権のソフトな姿勢をも糾弾した。

文中1

写真)ヒラリー・クリントン氏

出典)Office of the Historian, Bureau of Public Affairs,

United States Deprtment of  States

 

こうしたスタンスはトランプ氏の主張とも一致する点が多く、同氏自身、「ポンぺオ氏とは世界観の波長が合う」などとツイートでよく書いていた。

ただし両氏が以前から交流があったわけではなく、トランプ氏が選挙に当選した直後の昨年11月中旬、ポンぺオ氏をCIA長官候補としてトランプタワーに招いて懇談したときが初めての一対一の顔合わせだった。この50分ほどの会談でトランプ氏はポンぺオ氏のCIA長官任命を決めたという。

ポンぺオ氏は1963年生まれの現在54歳。陸軍士官学校出身で、学年首位の成績で卒業した。その後すぐの1986年に陸軍士官となり、東西冷戦下のベルリンに駐在したほか1991年の第一次湾岸戦争でも戦闘任務に就いた。

ポンぺオ氏は退役後、ハーバード大学の法科大学院を経て、大手法律事務所の弁護士となり、さらに実業界に転じた。中西部のカンザス州で航空宇宙分野のハイテク企業を立ち上げて、成功をおさめたのだ。

その後、2010年にカンザス州内の選挙区から連邦議会下院選挙戦に出て、当選する。下院では共和党保守として「茶会」にも加わり、国家安全保障の領域で活発に動いた。その活動がトランプ氏にも認知されたわけだった。

ポンぺオ氏のこうした政治軌跡をみると、その世界観は前任の国務長官ティラーソン氏よりもずっと力の効用を信奉し、強硬で、トランプ氏の感覚に合致しているともいえる。

文中2

写真)前国務長官ティラーソン氏

photo by United States Department of State

 

その意味ではトランプ政権全体としての対外政策はこれまでよりも足並みがそろうわけだが、その分、議会の民主党リベラル派などからの反発も激しくなると予測される。

ポンぺオ国務長官を先頭に立てたトランプ外交のより強固な構えが、今後の世界にどのような新しい波を広げるのか、同盟国の日本としても真剣に注視せねばならないだろう。

トップ写真)マイク・ポンペオ氏
Photo by Gage Skidmore

 

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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