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スポーツ  投稿日:2018/4/14

アスリートの働く環境に変化


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

面倒見のいい会社とは引退後もアスリートを社員として雇用してくれる所。

・しかし、企業はガバナンスの問題で人事に私的な理由をはさむことが困難に。

・働く環境が改善されれば、必然的に実力主義に近くなる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39458でお読み下さい。】

 

我々が学生の頃、面倒見のいい先生がいて、大学を紹介してくれたり、就職先を紹介してくれたりした。あそこにいくと、ちゃんと就職まで面倒見てくれるからという話は、大学選びの際に結構話されていた。ただ紹介してくれるだけだったらよくある話だが、スポーツの場合、会社の人事部にうまく差し込んで、普通のプロセスとは違うルートで入ったりする。ある意味下駄を履かせることになる。

大学を卒業し就職する時、面倒見のいい会社の条件は、引退してもちゃんと社員として雇用してくれるということを意味していた。選手だって怪我をしたり何が起きるかわからない。だから、仮にそうなったとしても会社が面倒を見てくれることが大事で、面倒見がいい会社はそれをやってくれる。そんな話だった。

面倒見のいい会社も、面倒見のいい先生も、いい人たちばっかりだった。何かあれば守ってくれるし、困ったら助けてくれる。とにかくその仲間内に入ると面倒を見てくれた。本当に我々が大学生の頃まではそれが一番幸せとも思えた。

あれから20年間、業績が不振で陸上部を廃止した企業がいくつもある。いくら会社が面倒を見てくれるといっても、会社自体がなくなってしまえば面倒を見ることはできなくなるし、会社も会社自体が存続できるかどうかという時には、なりふり構わない。生涯面倒を見てくれるためには、所属しているところが永遠に続かなければならないが、当たり前だけれどそこまでは相手も保証してくれない

面倒見のいい学校の先生も最近はやりにくくなったといっていた。問題はガバナンスらしい。要は面倒見がいいということは、裏を返せば人事に私的な理由を混ぜるいうことで、昔ほどそれはおおっぴらにできなくなったらしい。考えてみれば、組織や公共の利益より、自分とはいかないまでも身内の利益を優先する人がたくさんいる組織は、社会に貢献することを優先する人がたくさんいる組織よりは、弱くなる可能性が高い。

結局のところ、働く環境が改善されていけば、必然に風通しがよくなり実力主義に近くなる。女性だからとか、非正規だからとか、不当に低く評価されていた人たちをちゃんと評価しましょうというのが公平にするということであり、風通しがよく公平になれば、面倒は見づらくなる。自分の力で頑張ってもらうしかないし、何かできるならそれは公平ではないことになる。

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▲写真 イメージ図 出典 Pixabay photo by rawpixel

いきなり世の中が変わっていくとは思わないが、それでも徐々に変化していくのだろうと私は思っている。誰も嘘をついているわけではなく、ただ現実に生涯面倒を見れる人なんていない。少なくとも自分がいつ死ぬかなんてコントロールできないし、組織も同じだと思う。そのぐらいのつもりで付き合うよという気持ちの表れだと思う。それはうれしいが、受け取る側が本気になるとことは厄介だ。

大したアドバイスもくれず、自分でやればと突き放してきたあの人の優しさがわかるようになってきた。何も言わず、さりげなく自助論を渡してきた人もいた。本当の優しさとは何か、本当に自分にとっていいこととは何かが、歳をとると変化してくる

(この記事は2017年8月3日に為末大HPに掲載されたものです)

トップ画像:イメージ図 出典 Pixabay photo by robci95


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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