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スポーツ  投稿日:2018/5/6

「誰がわかっているか」わからない問題


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

本当に知っていることと、ただ知っていることの違いはわかりにくい。

インターネットにより、伝える力の影響が大きくなったから。

情報が溢れる中で「本当に知っている人は誰か」知っていることは価値がある。

 

最近タクシーに乗ると必ず運転手さんが、細かい道筋まで確認してくることがある。どうして確認するんですかと聞いたら、「いや最近はお客さんがグーグルマップで検索されて叱られたりするので先に聞くんですよ、ああ遠回りなのになと思いながらの時もありますよね」と。

走り方に関し、いろいろと議論していると、あれ、この人知識はあるんだけれども全体を理解しているわけじゃないぞという感覚を持つことがたまにある。個別の知識は正しいのだけれど、それを統合した部分にほころびがある。また話していることに実感がこもっていないので、質問を繰り返していくと、整合性がなくなる。

ところが詳しくない人、その業界がわからない人にとっては、誰が本当にわかっているかがわからない。さらにはわかっていない(私のような)人間ほど言い切るもんだから、余計に説得力だけはあってわからなくさせる。考えてもわからないので、みんなが納得するわかりやすい指標で判断すると、有名なあの人を、となってしまう。

誰でもそれなりに詳しくなれる時代において、本当に知っていることと、ただ知っていることの違いはわかりにくい。知っていること×伝える力=認知度、で考えると、インターネットにより、伝える力の影響が大きくなったからだと思う。業界であの人はすごいと言われる人と、世間から見てあの人はあの業界の第一人者だと言われることが一致しにくくなっている。そして一致していないことは、業界の外ではあまり知られていない。

情報が世に溢れる中で、本当に知っているというのはどういうことを自ら知っていること、また本当に知っている人は誰かを知っていることはとても価値があるように思う。相談する相手によって、最初にお願いする人によって、その後の展開が大きく変わる。最初に引く芋によって、ずるずる出てくる芋の方向が決まる。

最近は、色々学んで、自分でもそれなりに調べるけれども、それ以上に誰が本当のわかる人なのかを考えていることが多い。わかる人が誰かかわかるならお前はわかっているのかという矛盾は抱えながら。

(この記事は2017年9月7日に為末大HPに掲載されたものです)

トップ画像:イメージ図 出典 photo by 377053


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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