[大平雅美]<春の流行色は“黒”>黒い試着室、黒いはとバスも登場!商品力を高める「黒」に注目
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
大手企業の何社かが賃金抑制から賃上げへと大きく舵を切ろうというこの春。気分はウキウキの桜色だが、どうやら身の回りの流行色は「黒」に注目が集まりそうだ。日経新聞(2014.3.14)朝刊の消費面に「黒」についての記事が2本同日掲載された。
ひとつは、最大手の下着メーカーの売り場に黒い試着室が登場したというもの。その名も「BRAck BOX(ブラックボックス)」。この黒い室内ではブラジャーの着け心地やシルエットの美しさをより強く実感できるということだ。
もう1本は、はとバスの最高級バス「ピアニシモⅢ」。ハイヤーのようなツヤツヤの黒、漆黒カラーの車体に金や銀の水引をモチーフにしたライン入りのバス。4月からお目見えだが、黒に金、黒に銀を1台ずつ2台導入し、「貴賓席の旅」を運行する予定だそう。はとバスと言えば目立つ黄色が有名だが、中長距離ツアー用に高級感を演出した、はとバス初めての漆黒カラーで勝負をかける。黒い車体のバスの登場である。
さて、前出の黒い試着室には、舞台の楽屋で女優がメークをするような照明が鏡の両側にある。メーカー側の狙いは非日常感。両側から光が当たっているので、体の陰影が引き立ち、美しい肌に見えるという。また蛍光灯ではなく大きな電球型のライトによって気分も高揚する。
私も仕事柄、時々そのタイプの楽屋を使わせていただくことがあるが、確かにいつもと同じメークでも5割増しぐらいに肌に艶感がでるように感じる。さらに「光が当たっている!」という実感は、直接的にも感覚的にもスペシャル感や優遇され感がある。まさに黒い部屋の女優ミラーは、肌と下着のなめらかさを倍増させ、訴求効果絶大である。
一方の「黒いはとバス」は、外見の漆黒の高級感と合わせて、革張りのシート、各席にコンセント、化粧室のついたトイレ、飛行機のファーストクラスの高級毛布などの付加価値がつく。黄色のはとバスが全国各地で有名であればあるほど、たった2台しかない黒バスに乗る乗客は優越感に浸れるはずである。
(黒はどんな色とも相性が良い/高級感をより一層引き立たせる色)
この春の「黒」は、高級感、特別感、非日常性、優越感などを伴ったものになりそうだ。
さて、「黒」という色を歴史的に遡ってみると、ヨーロッパ中世の黒は醜く、邪悪、絶望、不安など負の象徴であったと同時に「ベネディクト会」の黒い僧服の色で清貧と服従の代表であった。それが後期になって王侯貴族が黒を好んで着るようになると、高潔、教養の高い人、威厳などイメージが高まった。
日本の古代では黒は穢れの色とされていたが、仏教の伝来で「何物にも染まらぬ不動の色」とされた。中でも黒を表わす色名に「玄」(げん)がある。あることに熟達した人を「玄人(くろうと)」というが、このもともとの意味は「暗い、深い、黒い」などで、奥深く、微妙な様(さま)を表していた。
さらに今から100年と少し前、米国ではフォードがT型フォードに、ベルトコンベアによる流れ作業生産方式を採用した。その時、創業者ヘンリー・フォードは車体色をエナメルの黒単色だけに設定した。大量生産大量消費時代の色は、まさしく「黒」から始まったのである。
業績回復の追い風のなか、大衆はより上級の商品や目新しい製品を求めるようになってくる。「黒」は大衆であっても高級を思わせる色の性質を持っている。景気回復を伺う今、手っ取り早く商品力を高めるには最も相応しい色と言えるかもしれない。
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