[為末大]<挑戦の理想と現実>「いわゆる成功者」が必ず挑戦しているわけではない
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
「挑戦」はとにかく「素晴らしい」と言われる事がよくあるけれど、僕はそうは思わない。
挑戦するにはそれなりに労力や他者の協力が必要で、それに失敗すれば他者の信用やそれまでに費やした時間等失うものもある。それに挑戦し続けて最後まで成功しない事もある。
何が成功かにもよるけれど、「いわゆる成功者」が必ず挑戦しているわけでもない。生まれたら庭に石油が出ていた人も、生まれながらに容姿に優れた人もいる。世の中は本質的には不条理で、挑戦している人が、リスクを取らないで生きている人に負ける事もある。
だから挑戦するもしないも個人の勝手で、挑戦したい人がすればいいし、したくない人はしなければいい。挑戦をせずに静かに平穏な人生を歩むのもいいと思う。「私は挑戦したい」もいいし、「僕は挑戦したくない」もいい。
挑戦は自分で選択できる。
ただ、挑戦した時の学びは、ルーティーン化された行動に比べ濃さが違う。新しい環境で「なんとかうまくやれないか」と適応をはかり、振り返った時には「大きな学び」をもたらしてくれていた事に気づく。「学び」はいつも不確定と新規性の中にある。
実際に社会的な成功も、「挑戦の数」が多い人の方が多いように思う。もちろん、みんな成功する訳ではないけれど、確率は高い。短期的には違っても、
“挑戦して失うもの” < “挑戦して得るもの”
になると思うから、挑戦を繰り返せば繰り返すほど差は開く。
挑戦したから、もしくはしなかったからこの人生を生きている。誰のせいでもなく、選んだのは自分自身。そしてどう足掻こうとも、挑戦の選択の結果は、残りの自分の人生で引き受けていくだけの話。
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