[染矢明日香]<中絶・避妊にまつわる本当のこと、知っていますか?>日本の中絶件数は出生数の5分の1、自殺者数の6〜7倍
染矢明日香(NPO法人ピルコン・理事長)
「毎年20万人が中絶 女性が働きながら出産の環境が貧困な日本」(http://news.ameba.jp/20140409-201/)というニュースがネットで話題になっています。
我が国で中絶が多いのは、今に始まったことではなく、むしろ全体数としては微減傾向にあります。一方で、毎年約20万件という中絶件数は、出生数の5分の1、自殺者数の6-7倍にも上ります。これは誰もが膨大な数、と印象を持つのではないでしょうか。今回はその背景と解決策としての性教育のポイントについてご紹介したいと思います。
上記の記事では中絶が多い背景として、女性が働きながら出産、育児をすることが難しい社会環境があるという有識者からのコメントを紹介していますが、読者からは、命を粗末にしているという声や、男性側の責任に言及する声も多くありました。私は中絶を選ぶ前段階の、「産みたいと思うタイミングではないのに妊娠してしまう」背景の一つに、避妊の知識のなさや誤解があると思います。
中絶を選択した女性の避妊法を聞いた全国規模の調査(注1)によると、
・ 避妊をした・しなかったと答えた人がそれぞれ半々
・ 避妊をしたと答えた内、約半数が膣外射精を避妊法として使っていた
・ 避妊をしたと答えた内、もう半数はコンドームを使っていた
という結果があります。
「避妊はコンドームをつけておけば大丈夫!」と思っている方も多くいるのではと思います。コンドームは日本で最も一般的な避妊法ですが、コンドームの一般的な使用の場合、年間15%の確率で失敗するという調査結果があります。正しい使用の場合でも年間2%の失敗率であると言われています。(注2)
そして日本の避妊法でコンドームの次にメジャーなのが膣外射精です。調査にもよりますが、だいた2-3割の人が膣外射精を避妊法として使っているようです。AVなどのポルノ情報の影響も少なからずあるかと思いますが、射精前の男性器からの分泌液にも精子が含まれるので、膣外射精は避妊法とは言えません。
より確実な避妊法は低用量ピル(正しく飲めば年間失敗率0.3%。飲み忘れがあると年間失敗率8%)か、性行為をしないことです。ただし、低用量ピルには性感染症を防ぐ効果はないので、コンドームと併用するのが欧米ではスタンダードなようです。
そしてもし避妊に失敗した際は、産婦人科で処方される緊急避妊ピルを72時間以内に女性が服用することで、高い確率で避妊できるという方法もありますが、こちらも一般の女性半数、男性3分の2が知らない(注3)という驚きのデータがあります。
「安全日だと思った」「家族に不妊体質の人がいる」「1回だけなら大丈夫かと思った」これらも中絶を経験した女性から私が聞いた言葉です。ただ、だれも中絶をしたくて、命を軽く思って妊娠をしているわけではない、というのは私が感じるところでもあります。
そこで、パートナーや、年頃のお子さんにこれだけは伝えたい、最低限の避妊の知識のポイントとして、以下の5点を提案します。
- コンドームを使っても避妊に失敗することがある
- コンドームを使う時は毎回必ず、始めから最後まできちんとつける(※ コンドームの正しいつけ方はこちらの動画で紹介しています)
- より確実な避妊方法は低用量ピル、もしくは性交しないのが一番確実
- 万が一、避妊に失敗した時は緊急避妊ピルを3日以内に服用する
- 統計上の安全日でも、家族に不妊体質の方がいても、たとえ1回の関係でも妊娠する可能性がある
日本には望めば、ほぼ確実に避妊できる技術があります。皆さんがパートナーやお子さんにきちんと正しい知識を伝えていくことで、思いがけず大切な人を傷つけることなく、産みたいと思うタイミングで産むことができます。そうすることで、自ら望む人生を自分で選択できる社会に近づいていくのではないでしょうか。
- (注1)厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「全国的実態調査に基づいた人工妊娠中絶の減少に向けた包括的事業」分担研究報告書(安達)
- (注2)Trussell J. Contraceptive efficacy. In Hatcher RA, Trussell J, Stewart F, Nelson A, Cates W, Guest F, Kowal D. Contraceptive Technology: Eighteenth Revised Edition. New York Ardent Media, 2004.
- (注3)緊急避妊ピル…女性半数、男性3分の2「知らない」=専門団体調べ|http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=1218&f=national_1218_011.shtml
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【プロフィール】
1985年生まれ。正しい性知識の啓発を行うNPO法人ピルコン理事長。 自身の経験から日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、慶應義塾大学在学中より「避妊啓発団体ピルコン」を立ち上げ、学生向けのセクシャルヘルスセミナーや、イベントへの出展を行う。「無関心層を関心層に」をテーマに若者が参加しやすく興味関心のテーマに沿った正しい性の知識や男女間のコミュニケーションスキルの啓発イベントを数多く開催。医療従事者の監修のもと製作・無料動画サイトに投稿した「パンツを脱ぐ前に知っておきたいコンドームの付け方」動画は2012年10月のアップ以来、100万回以上再生され、NHKやBSスカパー!、日経WOMEN、毎日新聞などのメディアにも数多く出演。