[古森義久]<全ての主権国家が保有する集団的自衛権>日本も世界での例外を止め、普通の国の仲間入りを
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
日本の集団的自衛権の行使を容認すべきか否か―
安倍晋三首相の5月15日の言明でこの問題が全日本をあげての熱い議論の主課題となった。集団的自衛権とは、ごく簡単にいえば、日本の平和、安全、利益などを外部の敵や脅威から守る際に他国との連携する権利だといえよう。いまはそうした連携は許されず、個別的自衛権の行使ができるだけの状態である。
この課題について考える際に不可欠と思われる点をここではまず二つだけ指摘したい。私自身は最初は毎日新聞、その後は産経新聞の海外特派員として通算35年以上も外国で過ごしてきた。その間には革命、紛争、戦争など安全保障にかかわる現実の事態に何度も遭遇した。
そうした体験から述べるならば、まず第一は、いまの世界では集団的自衛権というのはすべての主権国家が保有し、行使する権利を持っているという現実である。日本だけが憲法の解釈により「保有はするが、行使はできない」という異端の立場をとっている。国際社会のすべての国が持っている権利を日本だけが自らに禁じている。
今回の安倍政権の動きは、その禁止を解こうという目的である。日本も世界での例外を止めて、普通の国の仲間入りをするという動きだともいえる。
第二には、この集団的自衛権の解禁は日本の同盟国であるアメリカの歴代政権が長年、切望してきた、という点である。
オバマ政権は今回の安倍政権の措置を公式に歓迎した。オバマ大統領はすでに日米安保条約が尖閣諸島にも適用されることを言明した。もし尖閣が軍事攻撃を受ければ、アメリカは日本を助けるという意向の表明だった。この支援はアメリカの集団的自衛権の行使である。日本の安全は戦後の長い年月、米側の集団的自衛の態勢で守られてきたのだ。
だが日本自身はその集団的自衛権を否定する。アメリカが台湾や朝鮮半島の有事で軍事行動を取らねばならない場合にも、日本はその直接支援はもちろん後方や間接の支援もできないというのがこれまでの実態である。だからアメリカは日本から同盟相手らしい双務の協力を得られるためにも、集団自衛禁止のクサビを外してほしいと求めるわけだ。
この課題は国内的には多々の問題点も指摘される。だがまず議論や考察の入り口では、上記のような国際的視点への留意も欠かせないだろう。
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