[為末大]<勝つことの意味>「好きな事をしながら食っていけない人」はいるが「勝っていて食えない人」は少ない
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
勝利する為には、まず「勝利条件」が必要で、「出世する事」が勝ちだと思っている人が、仮に「幸せな家庭」を築いても勝利と感じない。だから「ひとそれぞれ勝利は違うよね」と理屈ではそうなのだけれど、それでも社会である程度共通の勝利条件が共有されている。
「勝利なんて意味が無いよね」、「何が勝利かわからないよね」・・・確かにそれはそうなのだけれど、本心からそう思うのはなかなかに難しい。なぜなら承認されたいという欲求が人にはあるから。「勝っても意味が無い」は、「勝てない事の説明」である事も多い。
好きな事を探すのは難しいけれど、勝てる場所を探すのは案外難しくない。好きかどうか、続けられるかどうかの前に、まず勝てるかどうか。僕の頭はそういう風に出来ているようで、勝とうとした方が頭がクリアになる。
価値観の多様性を認めるという方向や、個々の才能を認めて伸ばすという方向は、素晴らしいというのは認めた上で、それでも頑然と私達の目の前には競争がある。「好きな事をしながら食っていけない人」はいるが、「勝っていて食えない人」は少ない。
誰しもが「勝ちたかったのに勝てなかった」をある程度抱えていると思う。それを徐々に消化していって自分の勝利条件を練っていくのだと思う。でも、勝とうとしてある一定量頑張ってみなかった人は「本気を出せば俺は勝てる」にどこか縛られてしまう。
本当は欲しいものを、自分の頭でこねてしまうと、消化しきれなかったものが後々違う形で噴出する。まずは素直に欲しいものを追いかけてみるのも時には大切なように私は思う。
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