[為末大]<好きになる事の難しさ>条件で人を見る者は本質的には恋に落ちる事ができない
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
孔子曰く「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」。
楽しむ事の強さを語っている。なるほどそうか、だから楽しめばいいんだとなるけれど、実は好きになる事や楽しむ事は実は結構難しい。
まず「好き」、「楽しさ」は「義務」に弱い。好きだったものを職業にした途端、好きではなくなる事があるけれど、仕事にはある程度、「期限」、「ノルマ」、「品質の保持」が求められる。「やりたい時にやる」ものが「やらなければならない」に変わった途端、好きでいるのが難しくなる。
「楽しめばうまくなるらしい。なるほどじゃあこれで僕は成功したいから楽しもう。」既にその時点に矛盾を孕む。人は直接は「好き」をコントロールできないからだ。ある目的の為に好きになろうとする時点で、既に本質的な好きではない。人は何を好きになるか選べない。
運命の出会い症候群。好きなものがないのはまだ出会ってないから。
確かにそれはあるけれど、一方で自分自身が原因して何も好きになれない事も多い。得する為に好きになる。愛される為に愛する。もらおうもらおうとする人は好きになれない。好きは好きだけで成り立っている。
陸上が仕事になり、世間の期待値が高まり、いつの間にか義務になっていった時、楽しむ為に工夫した。今日はこういう走り方をするというルール、ここまで行けば成功というゴール基準の設定。ルールとゴールを作り練習をゲーム化した。
夢中に取引は無い。条件で人を見る人は本質的には恋に落ちる事ができない。ものを裁くのをやめ、報われなくても構わないと自分を解放した時に、ようやく何が好きかがわかり、楽しむ事ができるように思う。
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