.社会 投稿日:2014/4/18
[為末大]<勝利を目指さない事がなぜ難しいのか>「羨ましい」を隠せば隠すほど歪みが噴出する
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
戦略的思考の話や、勝利の話になると、必ず「勝つ事より好きな事をやるのが大事」や「勝ち負けが全てじゃない」という話がくる。これは全くそうだと思うのだけれど、ただ思っている以上に人が勝利への欲求から逃れる事は難しい。
世間はある程度評価基準を統一して持っている。かわいい、かっこいい、お金持ち、社会的地位が高い、能力が高い、人格的にいい。こういう要素を持っている人に注目が集まり、そうではない人には集まらない。
世界に一つだけの花を言うけれど、結局多くの人は一番売れる花を見る。
「勝たなくてもいいんだ」と思える事と、「勝てないから勝たなくてもいい」という事にしてある、は随分違う。本当は欲しいのに手に入らないから、欲しくないと言えば言うほど、もう一人の自分はずっとそれを欲している。勝負から降りる事は、そういう欲求を捨てる事とセットになっている。
好きな事をやって、それが例え大きな評価を得なくてもいいと思えるようになる事が、おそらく幸せにはとても大事なのだけれど、それはつまり「世間には評価されなくても構わない」とセットになる。
「羨ましい」を隠せば隠すほど、後々歪んだ形で噴出する。
戦略的に考えなくてもいいし、勝たなくてもいい。ただ勝てなければ当然、世間は振り向いてくれないし欲しいものは手に入らない。
一番問題になるのは、本当は勝ちたい非戦略思考。勝ちを手放す為には相当な内的戦いがある。
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