[古森義久]<米の対中国2014年報告書>中国が尖閣諸島・東シナ海・南シナ海で戦争をも想定した有事対処に比重
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
アメリカ国防総省が6月5日、「中国の軍事と安全保障の発展についての2014年報告書」を発表した。その全般については日本の大手メディアでもすでに報じたから、ここでは重要なポイントとして2点を指摘したい。
この報告書はアメリカの法律により毎年、国防総省が作成し、議会に送り、一般にも公表される定期報告である。今回の報告書も中国が継続して推進する陸海空軍、そしてサイバーや宇宙での大規模な軍事能力増強を具体的な兵器や作戦にまで触れ、詳述している。
まず第一に日本側として注視すべきなのは、今回の報告書が中国人民解放軍が尖閣諸島を含む東シナ海と、中国がベトナムやフィリピンと領有権問題でぶつかる南シナ海での「有事」への対処に大きな重点をおいたことである。 「有事」とは英語ではContingency, 直訳すれば「不測の出来事」「偶然の緊急事態」となるが、要するに最悪の事態としての軍事衝突、つまり戦争を意味する。
同報告書は中国の当面の戦略目標として「激烈な地域的有事に対し戦闘を実行し、短期に勝利する軍の能力を高める」ことだと規定する。その第一の具体例として「台湾海峡での衝突に備え、米軍を抑止し、撃破することも含めての」十分な戦闘能力を保持することをあげ、さらに「人民解放軍は台湾有事以外にも南シナ海や東シナ海での有事への準備に重点をおくようになった」と述べるのだ。毎年の同報告書で東シナ海と南シナ海の有事がこれほど大きな重点の下に記されたのは初めてだという点に日本側は注目すべきだろう。
第二に日本側が留意すべき点は、国防総省がなぜこのような報告書を毎年、出すかの背景である。 この報告書の作成は2001年から始まった。「国家防衛支出権限法」という法律で国防長官は「中華人民共和国の現在と将来の軍事戦略」についての報告書を議会に提出することが義務づけられたのだ。その法規定はさらに「中国人民解放軍の現在と将来の軍事・技術の開発、基本戦略、安保戦略、軍事戦略の構成内容、特に今後20年の軍事組織と作戦概念」についての報告を求めていた。
この事実はアメリカが2001年ごろからすでに自国の防衛態勢を決めるには中国の軍事動向をまず把握しなければならないという前提を樹立していたことを意味する。アメリカはそれほど中国の軍事増強を懸念し、自国の安全保障に直接の影響を及ぼす主要な要因とみなしてきたのだ。
それから10年以上が過ぎて、中国にソフトだとされるオバマ政権となっても、この基本は変わらないということだろう。 日本の防衛政策構想にも当然、共通する基本だともいえよう。
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