[大平雅美]<都議会セクハラやじ問題の本質>最近「男は仕事、女は家庭」という意識が高まったのはなぜ?
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
騒動が起こってから5日経って、東京都議会の鈴木章浩議員(51)が名乗りでて謝罪した。「少子化・晩婚化の中で早く結婚していただきたいという思いから、あのような発言になった」と説明した。
ここで私が驚いたのは鈴木議員の年齢である。51歳といえば昭和61年(1986)に施行された男女雇用機会均等法のほんの数年前に社会人になった世代。男女平等意識が社会に広がりつつある時代だった。
施行時の1986年にはまだ専業主婦世帯が多かったが、平成9年(1997)には共働き世帯が専業主婦世帯を上回っている。男女の社会での在り方の意識が変わってきた先導的な年代の男性による「ヤジ」は衝撃的だった。
このヤジ騒動から気になるデータに思い至った。固定的役割分担意識(夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである)についての調査結果である。
内閣府男女共同参画府から発表されているが、この「夫は外で働き、妻は家を守るべきである」の考え方について、昭和54年調査では72.6%賛成、20.4%反対と圧倒的に「妻は家にいるべき」と考えられていた。しかし平成16年(2004)調査で賛成45.2%、反対48.9%と反対がはじめて上回り、平成19年(2007)には反対が52.1%と半数を超えた。
しかしながらどうしたことか、つい2年前の平成24年(2012)には「賛成52・反対45」とまたこの固定的な「夫は外、妻は内」の意識が優位に立ったのである。男女別にみると、「男性の賛成55・反対41、女性の賛成48・反対49」と政府が考える女性の社会進出には程遠い数字がはじき出された。
この数字を冷静に見ると、男性側の共同参画社会に対する意識は明らかに後退しているが、女性のほぼ半々の意識もどう捉えるか悩ましいところである。つまり女性側も家庭で専業主婦をしたい人とバリバリ働きたい人が同じ割合というのが日本の現状なのである。
一方でこんなデータもある。同じ内閣府男女共同参画府が発表した「妻の稼ぎに対する期待」調査では、「妻にできるだけ稼いでもらいたい」と回答した男性(既婚)は2割弱に対し、「自分もできるだけ稼ぎたい」と回答した女性(既婚)は5割弱と大きな開きがある。
既婚男性の多くは妻には家でいてもらいたいか、扶養家族枠を出ない働き方を望んでいるのがよく分かる。年代別のデータもなかなか深刻である。
20歳代の男性は、辛うじて33%が妻に稼いでもらいたいと考えているが、約7割はそう思っていない。それに引き換え20歳代の女性は57.1%が「自分もできるだけ稼ぎたい」と考えていて、次代を担う若い世代の男女の社会参画意識もなかなか厳しい。
さらに海外に目を転じてみると、日本の悲惨な状況がよく分かる。
先日の日経新聞(2014.6.21朝刊)でスウェーデンの就労と育児に関する記事が出ていたが、専業主婦率わずか2%(1971年に課税制度が世帯単位から個人単位に変わったことも大きいようだ)、女性の管理職28%(日本は12%)、国会議員女性率45%、さらに男性の育休取得率は驚きの90%(日本2%)、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)1.89で日本の1.43を上回っている。
鈴木議員が謝罪で述べていた「少子化」への貢献だが、その仕組みを作る側の人間が女性議員に「ヤジ」で加勢しても何の意味もない。彼らヤジを放った議員たちは、日本の男性の育児休業取得率2.03%のお粗末な数字を知っているのだろうか。
少子化を打開するのはパートナーの存在と職場の理解が大きい。議場でヤジを飛ばしている時間があったら、少しでも多くの企業が男女ともに育児休業しやすく、賃金補償の面でも安心でき、しかも産んだ後の保育環境の充実に力を注ぐべきであると思う。
「女性は結婚することが幸せ」などと思っているのは、もはや男性の幻想で、当の女性たちはとっくの昔に白馬の王子様なんていないことに気がついている。だから前出のように「私も稼ぎたい!」と言っているのだ。
さらに職場環境や賃金補償、保育支援が整えば、結婚して出産したいと思う女性も増えるだろう。もうこの騒動はよい。早く男女ともに「これが私の幸せ」といえる社会の実現に向けて、政治家は具体的な取り組みを始めてほしい。
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