[渡辺真由子]<都議会セクハラ野次問題>糾弾しているメディアこそ性差別意識を助長してきた自覚と反省を
渡辺真由子(メディアジャーナリスト)
「あのオッサン議員たちは普段の飲み会とかでも、ああいう発言をしていたんだろうね」というのが、私の周囲の女性たちに共通する見方だ。例の都議会での女性議員に対する、「早く結婚すればいい」「産めないのか」等のセクハラ野次についてである。
酒を飲んだ人間が本性を露わにするのと同様、この議員達は野次という気が緩む形で、「女はさっさと結婚するべき」「子どもを産めない女は劣っている」という自分たちの性差別意識をポロリと出してしまったのであろう。
だが、そうした意識に当該議員らが染まっていることを、本人の個人的問題として片付けてしまっていいのだろうか。メディア・リテラシーとジェンダーを専門とする筆者の立場から言えば、人々が性差別意識を刷り込まれる過程には、メディアによる「社会の空気感」の形成も深く関わっている。
「女はさっさと結婚するべき」という空気感については、例えばテレビがバラエティ番組で「結婚しない女=負け犬」と決めつけた構図を面白おかしく放送したり、結婚相談所が「素敵な女性は結婚しています」といったキャッチコピーの広告を作成し、それを新聞が大々的に掲載したり、ということが行われてきた。
「子どもを産めない女は劣っている」とする空気感についても、もともと女性に対しては、子どもを産んで当然、産まなければ一人前ではない、というプレッシャーを社会がかけてきた。率先して出産を奨励してきたのが、メディアである。「お国のために産めよ、増やせよ」とは口に出してこそ言わないが、広告やテレビドラマが「家族」を描くとき、そこには「子ども」が付き物だ。
また、「結婚して子どもを産むのが女性の幸せだ」と声高に言う有名人を新聞や雑誌に登場させる。極めつけはNHKの朝の連続テレビ小説。最近こそ「あまちゃん」のように、女性の青春時代に焦点を絞るものも出てきた。だが大半の作品では、ヒロインたちはお決まりのように結婚して出産する。
「普通の」女性は子どもを産むもの、というメッセージをメディアが発信することは、「子どもを産まない女性は普通じゃない」という価値観を言外に伝えてしまう。
もちろん、同じメディアを見ても全ての人が同じ影響を受けるわけではなく、当該都議らの性差別意識に関しても、メディアだけが原因ではないだろう。
だがメディアは、今回のセクハラ野次をひたすら糾弾するにとどまるのではなく、実は自分たちがこうした性差別意識を形成する肩棒を担いできた可能性に、思いを致すべきである。
なにしろ、セクハラ野次をもっともらしく批判するほんの数日前には、スカイマーク乗務員のミニスカート姿を鼻の下を伸ばして報じていたメディアもあるぐらいだから。
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【プロフィール】
渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)
メディアジャーナリスト 慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶応大学SFC研究所上席所員(訪問)。若者の「性」とメディアの関係を取材し、性教育へのメディア・リテラシー導入を提言。テレビ局報道記者時代、いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書』で日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞。平成23年度文科省「ケータイモラルキャラバン隊」講師。平成25年度法務省「インターネットと人権シンポジウム」パネリスト。主な著書に『オトナのメディア・リテラシー』、『性情報リテラシー』、『大人が知らない ネットいじめの真実』など。