[染矢明日香]<ろくでなし子氏逮捕問題の争点はズレている?>逮捕要因は「作品」ではなく「元になったデータの頒布」
染矢明日香(NPO法人ピルコン・理事長)
女性器の3Dデータを配布したとして、アーティストの「ろくでなし子」さんが逮捕されました。
この件に関して、「女性器はわいせつではない!」「逮捕は不当で人権侵害!」「立派なアーティスト活動をしているのに“自称芸術家”とする報道に悪意を感じる」など、様々な物議を醸す意見が噴出。さらには署名サイトで彼女の即時釈放を求めるプロジェクトまで立ち上がっています。
私自身、彼女と性にまつわるイベントでお会いさせていただいて、その志の高さに共感しており、またろくでなし子さんの書くウェブコラムは面白く、一読者として大ファンの一人です。
彼女を応援したい、という思いがある一方で、サポートしたいと思う人達の動きに「戦う論点、ズレてませんか!?」と突っ込みたくなる部分もあります。この逮捕は果たして不当なのか?支援者であればどうしたら良いのか? などについて、改めて考えてみたいと思います。
まず今回の逮捕について警察や報道への不信感を募らせる人々の主張は「女性器はわいせつではない」「このアートのどこがわいせつなんだ!」ではないでしょうか。
しかし、今回問題になっているのは、「女性器をモチーフとしたアート作品」自体ではなく、そのアート作品の元となる「女性器を3Dスキャンしたデータ」です。ろくでなし子さんは昨年、クラウドファンディングサイトで女性器をかたどったボートを作成し、一定金額以上を支援してくれた方に元データをプレゼントする、という企画を実施しました。
この3Dデータの配布が刑法175条のわいせつ物頒布等罪にあたるとされ、今回の逮捕に至ったわけです。そして、このわいせつ物の定義は「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」であり、性器を写したデータはこれにあたるというわけです。
「なんでアダルトビデオとか、ポルノ漫画を制作している人は逮捕されないの?」と思う方もいるかもしれませんが、性器及びその周辺が塗りつぶし・モザイク・ぼかし等で不鮮明になっており、それらの加工を除去し、再現するのが難しい状況ならばわいせつ物とは認定されません。
わいせつな文書であっても芸術性が高いため、違法性はないとされた判例もあります。しつこく言いますが、今回法の触れるところとなったのは、アート自体ではなく、アートの型となった女性器のデータです。そして、送った3Dデータの再現性があると言えるかどうかが、わいせつ物にあたるかどうかのポイントになるのですが、先述の共同通信社報道によると、「保安課は、3Dプリンターに入力すると石こうなどで形状を再現できるデータは、わいせつ物に当たると判断した」とのことです。
ただ、「3Dプリンターは一般にはまだ普及しておらず、再現性は低い」という主張はできると考える弁護士もいるようです。ろくでなし子さんの逮捕の不当性を説く立場をとるのであれば、「女性器はわいせつなモノではない」「送ったのはアートだ」という主張ではなく「3Dデータの再現性は今の世の中では低い」という主張の方が妥当と考えられるかもしれません。
この問題、皆さんはどう考えますか?
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【プロフィール】
1985年生まれ。正しい性知識の啓発を行うNPO法人ピルコン理事長。 自身の経験から日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、慶應義塾大学在学中より「避妊啓発団体ピルコン」を立ち上げ、学生向けのセクシャルヘルスセミナーや、イベントへの出展を行う。「無関心層を関心層に」をテーマに若者が参加しやすく興味関心のテーマに沿った正しい性の知識や男女間のコミュニケーションスキルの啓発イベントを数多く開催。医療従事者の監修のもと製作・無料動画サイトに投稿した「パンツを脱ぐ前に知っておきたいコンドームの付け方」動画は2012年10月のアップ以来、100万回以上再生され、NHKやBSスカパー!、日経WOMEN、毎日新聞などのメディアにも数多く出演。