[加藤鉱]<アルプス電気社長が中国支社で謝罪>いったん謝罪するとどんどん要求がエスカレートする中国人
中国国内ではこのところ、外資系企業の工場移転など事業再編にともなう補償金をめぐってのトラブルが多発している。
そんな最中、外資系企業が蝟集する広東省東莞市でその事件は起きた。7月1日、同市内で操業する関連会社・東莞長安日華電子廠を視察していたアルプス電気の片岡政隆会長が殺気だった工場従業員に取り囲まれ、あわやの場面があったと地元政府が報じた。
幸い、負傷者および工場設備には被害はなかった模様である。それにしても、「またか」と私は思うのだ。日本企業はいったい幾たびこういう騒ぎをやらかせば気が済むのだろうか?
原因は片岡会長の発言にあった。この日午前、彼は同工場の管理職を集めた会議において、「日本が先の戦争に参加したのは中国を守るための聖戦であった」と持論を述べたのだが、これは中国展開で失敗する〝おバカ経営者〟の典型としか言いようがない。
おそらく片岡会長は会議室のなかの内々の話だからと甘く考えていたのだろう。日本では正論であるとしても、この国では通用しないのは、これまでの経験則からわかり切っているはずではないのか。
その会議に同席させた通訳から彼の発言内容が瞬く間に同工場内に伝播し、従業員1千人規模の工場は操業停止となった。結局、工場退出の際、片岡会長は謝罪し、許しを乞うことになってしまった。当然ながら、彼の本意ではなかろう。
だが、問題はこれからなのだ。日本の本社トップが謝罪したことの意味の大きさが日本企業側にピンときていないフシがあるのが困る。今後起こりえる労働争議に対して、従業員側に大きなアドバンテージを与えてしまったことがわかっているのだろうか。
「中国人は、いったん相手が謝罪すると、どんどん要求がエスカレートしてくる。日本人が『水に流す』発想であるのに対して、中国人は『千古罪人』、悪い奴はいつまでも悪いという発想なので、相容れない。だから、労働争議で従業員側と一戦を交えるのであれば、徹底的に叩く。相手が完全服従するまで許さないぐらいの気構えが必要だ。今回のように、自らの至らなさで謝罪するのは、あとあと最悪の事態を招く可能性がある。」
こう語るのは、長年にわたる私の定点観測に応じてくれている日本人経営者で、彼自身、同じ華南地域で香港出資・日本出資・台湾出資の3工場を展開している。何事も徹底的に。これが中国ビジネスでの生命線だと、彼は言い切る。
たとえば、中国でもっとも困難とされる「売掛金回収」に対しても徹底している。支払いを渋る相手に対しては、粛々と差し押さえを行っている。周囲の日本企業の多くは、「そこまでやる必要があるのか?」と疑問を呈するそうだが、私はこれこそが彼の真骨頂だと思う。
「差し押さえは、僅かな金額でも『相手を徹底的に叩くのだ』というわれわれのマネージメントスタイルを従業員に見せつける絶好のチャンスと捉えている。われわれに付け入る隙がないことを知らしめる。目先の損得計算でなく、すべての出来事を利用して前に進むのがポイントだ」
こう語る彼の工場では、あの反日暴動の季節でさえ、ストライキの「ス」の字もなかった。人間の欲望が膨らませたバブルはいつか弾けるものだ。だが、すべての日本企業が叩き潰されるわけではない。中国バブル崩壊の足音が次第に強まってくるなか、彼の工場がどう凌いでいくのかを見届けるのも私の仕事だと任じている。
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