<現役自衛官が「中国軍機の異常接近」を直言>国際ルールや慣習を守らない中国軍の疑わしい教育レベル[現役自衛官の国防・軍事ノート]
ペンネーム・島津 衛(防衛大学校卒、現役自衛官)
2014年5月24日、東シナ海の日中中間線付近において中国軍機が航空自衛隊の戦闘機に約30mの距離まで接近するという事件が起きた。
この事案を受けて、中国は「日本側が危険な状況を作為している」とか「航空自衛隊も接近することがあった」と発表した。要するに「もみ消し」に躍起になっているということだ。航空自衛隊はこれまで常に国際法に基づいた適切な対応をしている。
今回の「事件」が発生した位置も、中国が一方的に設定した防空識別区付近であったとは言え、まったく問題のない区域である。
航空自衛隊が通常行っている対領空侵犯措置においては、対象機との距離を約600m、確認が必要な時でも150m程度に保っている。また、接近する際には相手が脅威に感じないよう後方の飛行を避ける。そのようなことを踏まえると、今回の中国軍機の飛行は異常としかいいようがない。
中国国防部は、記者会見で「2013年11月に中国軍機Y-8に航空自衛隊のF-15が約10mまで接近する事件があった。その証拠を握っている」と発表した。さらに6月12日には、その前日に「中国空軍の航空機に航空自衛隊のF-15が約30mに接近した」との談話をホームページに掲載し、その動画をアップした。
ところが、その動画に映っている翼の大きさと航空機の寸法を詳細に解析してみると、約200mは離れていることがわかる。ここから言えることは、中国が意図的にデマを真実であるかのように宣伝しているか、中国軍のパイロットの距離感がおかしいかのいずれかだ。
現場の航空自衛官や海上自衛官から聞く話がある。それは中国軍の航空機や艦艇が国際ルールや慣習をまったく守らず危険であるということだ。たとえば航空機は対領空侵犯措置のルールを守らず、異常接近することや機体信号(機体の動きによる合図)などを理解していないことがあると聞く。さらに中国の戦闘機が自衛隊機の後方を飛行するという危険極まりない行動もあり、搭乗していた隊員たちに緊張が走ったこともあるとも聞く。
艦艇に至っては、危険回避の行動すら理解していない場合があり、そもそも船舶としての基礎知識を疑うことがあるという。このような状態を見ると、パイロットや艦長に対する教育が行き届いているとは言えず、交戦規定なども徹底されていないのではないかと考えられる(昨年1月の射撃管制レーダーの照射などはその好例だ)。
つまり、現在南西諸島付近で中国軍と向き合っている自衛隊は、このような中国軍を相手に任務を遂行しているのである。こんな状態が続くと、いつ偶発的に攻撃を受けるかわからないし、攻撃を受ければ、場合によっては反撃せざるをえなくなるかもしれない。
そうやって戦争が始まることだけは絶対に避けたいと思うが、中国軍はどう考えているのだろう。
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