[清谷信一]大手新聞も混同「武器輸出三原則」と「武器輸出三原則等」の大きな違い③
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
我が国の中小企業で海外の防衛産業や航空宇宙産業に進出を志す企業は少なくない。それは国内市場が閉鎖的だからだ。国内の防衛産業は市場が小さい上に、既存企業が新規参入を阻害しているので参入は困難だ。
例えば世界第二位のアラミド繊維メーカーであり、国内の大手繊維メーカーである帝人ですら、東レと東洋紡に阻まれて参入ができない。同社の社員は防衛省参入にもう無駄なエネルギーを使うより、世界の市場で勝負する、と筆者に語っている。
ただ中小企業は対外的な交渉力が弱かったり、法務が弱い。故に先に述べたような経産省や税関の人治主義を大きなリスクと考えており、これを理由に海外進出をしたいのだが、やらない中小企業も少なくない。当局による明確なルール作りと、ジェトロによるサポートが必要だ。
輸出緩和は相手も日本に入ってくるということでもある。
武器禁輸緩和というと海外への輸出の拡大だけが語られるが、規制が緩和されれば外国の企業も日本に支社をつくったり、買収を行うことが容易になる。「おたくの国に支社をつくります、輸出もします、ですがおたくの会社が日本へ進出するは認めません」では通用しない。
現在我が国では防衛産業の外国企業への売却は非常にタイトに制限されている。しかし、防衛産業では倒産、撤退企業が相次いでおり、買収に関する規制が緩和されれば事業の継続が可能となる。そのような視点から外資による買収、あるいは資本参加を論ずるべきである。
無論、国防には機密がつきものであり、無制限に外国企業の国内市場参入を認めるわけにはいかない。だが、外資の国内市場参加を脊髄反射的に拒否するのも現実的とは言えない。国益に沿うかたちで外資の参入ルールを作る必要があるだろう。兵器の輸出緩和は短絡的な視点ではなく、広い視野と長期的な国家戦略に基づいて、何を目標にするのかということを明確にした上で行うべきである。
現実問題として今や一国ですべての軍需物資を開発生産するは無理である。開発費や生産・維持費は高騰し、調達数は減っているからだ。米国ですらその例外ではない。輸入できるものは輸入し、国際共同開発にも参加し、輸出できるものは輸出して、防衛装備の調達,維持コストを低減する必要がある。
武器禁輸緩和というと「死の商人」と脊髄反射的に否定する向きが新聞記者などにもいるが、思考停止だ。我が国は世界有数の武器輸入大国だ。買うのは良くて、売るのはダメというのは何故だろうか。我々日本人は道徳的に優れているから買ってもいいが、そうでない外国人に武器を売ると例外なく悪用するとでも言いたいのだろうか。
武器禁輸に対して感情的に反発するのではなく、理性的に国益を考えて建設的な議論をしたいものだ。
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