[藤田正美]【オバマ、イラクに地上軍か?】
藤田正美(ジャーナリスト)
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「イスラム国(IS)」に懸念を強めている欧米やアラブ諸国。先日、パリで開かれた外相会議は20カ国以上が集まって鳩首協議をした。なかには「地上軍を送る」と勇ましい言い方をした国もあるようだが、アメリカのオバマ大統領は一貫して地上軍は送らないとしている。
そこに飛び込んで来たのが、マーチン・デンプシー米統合参謀本部議長の発言だと報道されている。米軍は今でもイラクに1600人派遣されており、アメリカの大使館などの警備にあたっているが、「イラク軍のアドバイザーとして密接に協力できる」と語った。さらに続けて「もしそのアドバイザーがイラク軍とともにある特定の標的を攻撃する時期に達したと判断したら、私は大統領に攻撃に加わることを進言する」
オバマ政権の高官がこうした意見を表明したのははじめてのことだ。アメリカのジャーナリスト2人がイスラム国に「処刑」されたことで世論の風向きも変わっていることが背景にあるのかもしれない。空爆もそうした声に後押しされたものだが、それでも再びイラクの泥沼に足を踏み入れるという決断をすれば、果たして世論がどう動くだろうか。
しかも、こうした事態の背景には、アメリカが幻の大量破壊兵器を理由にイラクのフセイン政権を打倒し、シリアの反政府勢力に5億ドルもの資金援助を行ったということがある。その結果、イラクの政情は不安定化し、シリアは果てしない内戦の泥沼に突っ込んでいった。
シリアでも生物兵器という大量破壊兵器をアサド政権が使ったというのがアメリカの「間接介入」の理由になった。しかし中東のある軍事専門家はこう言ったという。「生物兵器ほど効率の悪い兵器はない。管理も大変だ。国際社会が処分してくれることになっていちばん喜んだのはアサド政権だ」
SNSによってもたらされた民主化運動アラブの春を、独裁政権を倒すという一点で先進諸国は歓迎した。しかし実際には、どこかで落ち着くとはいえ、アラブ社会は依然として混乱したままだ。チュニジア、リビア、エジプト、シリア、これらの国が不安定なことでヨーロッパ南部への密航者も増え、また新しい火種となりつつある。
アメリカが本当にまたイラクに戦闘部隊として地上軍を派遣することになるのかどうか。オバマ大統領は、中間選挙と世論の動向を気にしながら、どこかで決断を迫られるかもしれない。
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