[藤田正美]【EU経済、再び景気後退へ?】~富の再分配必須、揃わぬ各国の足並み~
藤田正美(ジャーナリスト)
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IMF(国際通貨基金)が火曜日に発表したWEO(World Economic Outlook)によると、世界経済は不透明感を増しているようだ。成長率予測も今年は3.3%と4月時点よりも0.4ポイント下方修正した。
いちばん懸念されているのはヨーロッパだ。マイナス成長が続いた2012年、2013年。今年は回復と見込まれていたが、7月の見通しより0.3ポイント下方修正されて0.8%になった。EUの主要国であるドイツ、フランス、イタリアがそれぞれ0.5ポイント、0.4ポイント、0.5ポイントと大幅に下方修正されているのが影響している。イタリアは今年もマイナス0.2%と3年続けてマイナス成長になる見込みである。
EUが苦しんでいるのは、基本的には2008年のリーマンショックの後遺症、言葉を換えれば「二日酔い」である。2010年に始まったいわゆるソブリンリスク(ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、イタリア、スペインといった国の国債利回りが急騰し、資金調達ができなくなった状況)は何とか落ち着いたものの、不良債権を抱えた銀行の処理はまだ残っている。ちなみに日本でも1990年に弾けたバブルの後遺症をようやく始末できたのは、2001年に成立した小泉政権になってからだ。
またEUは日本型とされるデフレに陥るリスクにおののいてもいる。ECB(欧州中央銀行)は先に、ABS(資産担保証券)などを銀行から買い入れる量的緩和に踏み切ったが、国債の買い入れではなかったことや、買い入れ金額を明らかにしないなど、やや不十分な量的緩和と見なされてしまった。このため通貨ユーロの為替相場も期待したほど安くならかった。
事ここに至っても、ドイツは財政規律という原則論を捨てようとはしない。IMFが今年のWEOの中で、「インフラ投資で経済を押し上げる時」と主張したのは多分にこのドイツを意識しているのかもしれない。
ただEUの中でドイツが優等生でいられるのは、それこそギリシャなどの犠牲の上に乗っかっているからだ。EU加盟国のうちで「弱小国」は、たとえドイツとの間で大幅に入超になっていようとも、為替という調整手段をもたない。単一通貨だからだ。そうなると、加盟国同士で何らかの調整手段がない限り、格差は広がる。
調整手段とは要するに、富の移転である。EU加盟国とはいえ、それぞれの国の事情を抱えているから、富裕国はここには反対する。しかし考えてみるがいい。日本の国内だったら、都道府県で富の再分配を行っている(国の地方交付税交付金)。東京都でも各区などで再分配を行っている。そうしなければ税収の偏りを是正できないからだ。
為替調整という手段がないEUだからこそ、ここから先は、富の分配と財政の統一という方向に向かって動かなければなるまい。歴史は前に向かって動かさなければならないのである。
しかし強国ドイツが、自分たちの利益をいくらか失ってでも、そうした方向に動きだすのかどうか、それはまだわからない。
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