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.政治  投稿日:2014/10/17

【沖縄のしたたかさと逞しさ】~“外交交渉”であることに気づかぬ政府~


宮本雅史(産経新聞社編集委員)「宮本雅史の親日保守を考える」

執筆記事

前回に続いて今回も沖縄編を。沖縄というと、まず頭に浮かぶのは紺碧の空に群青色の海。それに大東亜戦争での沖縄戦で四人に一人が亡くなったという悲惨な事実、さらに日本復帰後も米軍基地を押しつけられたという事実。後半の二点は全国津々浦々まで「沖縄は可哀想だ」「沖縄は差別されている」という印象を植え付けてきた。

沖縄に四年間住んで実感じたことは、この二点を巧妙に使った沖縄人独特の交渉術の巧みさとしたたかさだ。その一例を。民主党政権当時、米軍普天間飛行場の移設問題で時の総理や閣僚の沖縄詣でが盛んに行われた。多い時で週末は必ず、だれかが沖縄を訪問しているという時期もあった。鳩山由紀夫元首相が打ち出した県外移設を一転して県内移設に方向転換、沖縄県民の期待を裏切ったことへの呵責と県内移設への理解を求めるのがその目的だった。

首相や閣僚との知事との面会をみると、興味深い。あいさつの後、口をついて出るのはまず、「沖縄には色々とご負担をおかけしまして…」というお詫びの言葉。「フン、フン」とうなずく知事。この段階で前哨戦が決まる。これは予算獲得交渉が本格化すると威力を発揮する。

お詫びの言葉にうなずいた後、知事の口から出るのは「それはそれとしてひとつお願いが。来年度の沖縄振興策ですが…」。早速、予算の確保交渉を切り出す。沖縄に対して二つの責任を感じている政権側は抗弁することなく「前向きに検討させて頂きます」。これで交渉は幕を引く。

「政府はなぜお詫びばかり繰り返すのか。本土は沖縄のことを知らなさすぎる。戦争被害者と米軍基地というカードを切られると、すぐに沖縄を聖域化して何も言えなくなってしまう。沖縄はそれを見通している。さらに、それが沖縄の被害者意識を助長しているということに気づいていない。日本政府の外交交渉力の欠如にもつながっている」ある革新系の地方議員の解説だ。

沖縄の交渉術を外交交渉ととらえるとわかりやすい。外交とは、そもそも、立場の違う国家が良好な関係を維持しつつ、自国の利益を引き出すことだ。沖縄は琉球王国という古い家屋に中国の王朝文化が乗っかり、その上に日本の文化が乗っかり、さらにアメリカ文化が乗っかるという多種多様な文化がチャンプル状態にある。紆余曲折した歴史の中で沖縄人は生き延びる術を体得、DNAとして引き継がれているのだ。常に謝罪を繰り返す日本政府に対し、その後ろめたさを最大限に活用しているのだ。

こうした実情を念頭に、予算交渉や米軍基地問題をめぐる知事の日本政府とのやりとりを見ていると、あることに気づく。日本政府は他の都道府県と同じような感覚で交渉をするが、沖縄は違う。沖縄は政府対自治体の交渉をしているのではない。日本国と外交交渉をしているのだと。長い歴史を通して体得した術を駆使し、沖縄を守るための交渉をしているのだと。そこには是が非でも沖縄を守ろうとするしたたかさと逞しさを見る。そして、日本政府はいまだにそれに気づいていないのだと。

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宮本 雅史(みやもと まさふみ) 「親日保守を考える」

1953年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、産経新聞社入社。1990年、米国・ハーバード大学国際問題研究所に訪問研究員として留学。1993年、ゼネコン汚職事件のスクープで日本新聞協会賞を受賞。司法クラブキャップ、警視庁記者クラブキャップ、東京本社社会部次長、バンコク支局長などを経て一時退社。その後、書籍編集者、フリージャーナリストを経て、産経新聞社に復社。那覇支局長を経て現職に。主な著書に、『「特攻」と遺族の戦後』『海の特攻「回天」』(以上角川ソフィア文庫)『報道されない沖縄』(角川学芸出版)『歪んだ正義──特捜検察の語られざる真相』(角川文庫)『電池が切れるまで』(角川つばさ文庫)など。

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