神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)「神津多可思の金融経済を読む」
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このところ国際金融市場が乱高下している。こういう時には、ここぞとばかり悲観論も出てくるが、世界経済のパフォーマンスが急激に悪化したという明確な証拠が出たわけでもない。マーケットは何を探って大きく動いているのだろうか。
世界経済を構成する諸国・地域は、それぞれの事情を抱えているが、全部合わせれば、今年も昨年と同じ+3.3%の成長だというのが、IMF(国際整理基金)が発表した最新の見立てだ。しかし、それこそが期待外れでもある。昨年10月には、2013年が+2.9%、そして2014年は+3.6%と予想されていた。2013年の成長率は結果的に上振れたが、2014年に成長が加速するという見通しは裏切られたのである。
昨年に比べ今年の世界経済の成長が明らかに減速しているわけではないにもかかわらず、世界の株価が大きく下げたのは、それまでは今後の成長加速を織り込んでいたが、ここへ来て楽観に過ぎるとの見方が広がったからだろう。今回のIMFの予想では、2015年について+3.8%と加速することを予想しているが、金融市場はそれも疑い出したようだ。
その理由としては、まず挙げられるのが欧州の動きだ。全体として低調を続ける中、相対的に好調だったドイツでも、4~6月はマイナス成長で、夏場の生産の動きなどからすると2期連続マイナスもあり得るかもしれないと言われはじめた。物価面でも、もうすぐデフレというところまでインフレ率が低下している。そうした中でECB(欧州中央銀行)は、日本や米国のような大規模な量的緩和には制度上の制約もあってなかなか踏み切れないようだ。加えて、欧州の主要銀行については、ECBが単一の監督当局として、同じ目線での資産内容のチェックに着手している。いわゆる「横串しを刺す」資産査定であり、デジャブ的な印象を持つ日本人も少なくないだろう。
世界の成長センターであった中国経済をついても、7%程度の成長を前提とした「新常態」に向けての調整が進む中で、欧米からの見方は厳しく、どうしても「ハード・ランディング」懸念が払拭されない。そうした中国経済の動きを受けて、資源輸出国を中心に、新興国経済の成長率見通しも並べて下方修正されている。
頼みは米国経済だが、今月28日、29日に予定されているFOMC(連邦公開市場委員会)で量的緩和は終了する予定だ。それについても、最近の国際金融市場の乱高下を眺め、見送るのではとの説も出ているが、いずれにせよベクトルは、通常の金融政策へと戻っていくほうに向いている。そうした金融政策スタンスの変更が正当化されるほど経済はしっかりしているというのがFRB(連邦準備理事会)の判断だ。それでも国際金融市場からしてみれば、流動性の注入が減って大丈夫かと心配になる。
さらに、米国と並んで優等生サイドにいた日本も、4月の消費税増税の影響が予想以上に重くのしかかっている。7~9月の経済成長も、これまでは+4%前後とするエコノミストが多かったが、ここへ来てその半分程度だろうとの見方になっている。そうした中で、来年10月の消費税再引き上げの判断を巡ってはなお慎重論が根強い。
上に見たように、弱気になる材料はたくさんある。往々にして金融市場は良いか悪いかのどちらかを二者択一的に選びたがるが、しかし、現在みえている世界経済のリアリティは、3年続けて+3%ちょっとのほぼ等速成長を続けるというものだ。そのスピードで失速しないのかどうか、国際金融市場は今一つ確信を持てないでいる。しかし、さまざまな構造的要因が、停滞とまでは行かなくとも世界経済の成長を制約している下では、過去に経験のない状況もまた維持可能かもしれない。そのあたりに得心が行くまでは、強気と弱気が入り乱れての乱高下は避けられないということだろう。
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