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.国際  投稿日:2013/11/13

[藤田正美]ユーロ圏が抱える根本矛盾〜銀行を一元的に管理する仕組みは可能か


Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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先週、ECB(欧州中央銀行)は政策金利を0.25%ポイント引き下げ、0.25%と史上最低にした。ECBの利下げを予想していたエコノミストはほとんどおらず、予想外の行動だった。ドラギ総裁が引き下げを決断したのは、10月のインフレ率が前年比0.7%とECBの目標値2%を大きく下回ったからだとされている。それだけ景気回復の足取りが重いということに加え、デフレのリスクが高まっているという危機感からだ。

欧州経済はリーマンショックの後、南欧の一部諸国で国が資金調達ができない状態に陥った。景気の落ち込みで税収が減り、財政赤字が拡大した上、一部ではユーロ圏加盟のときに「粉飾決算」していたことまでも発覚したからである。この問題は、ユーロ圏やIMFなどの資金援助によって一応の解決を見たが、それでおしまいというわけではない。

住宅バブルがはじけたことで、ヨーロッパの銀行に不良債権が堆積しているからだ。実際、欧州の銀行の預金に対する融資の比率は110%前後とされている。これは日本の失われた10年のころの比率と同じだという。つまり日本がその後、長期にわたるデフレに陥ったように欧州もデフレに陥るリスクがあるということだ。それを防ぐために必要なことは、銀行の不良債権を処理すること、そして融資で辛うじて生き残っているゾンビ企業を破綻させることである。もちろんその過程で銀行そのものが破綻することもある。

いまユーロ圏は、銀行同盟に向かって踏み出している。要するに銀行を一元的に管理する仕組みだ。そして預金保険機構も一元化し、さらに銀行の破綻処理も一元化する方向で動いている。その第一歩としてECBは域内銀行の検査をする予定だ。ここで不良債権の額があまりに大きいということになれば、その銀行を破綻させるか、あるいは資本を注入して不良債権を処理させるということになるだろう。

ただ経済の論理だけではいかない。それぞれの国にとって自国内の銀行が破綻するということになれば、それは大問題だ。まして破綻させるかどうかの決定をECBという組織に握られている状況は、「主権国家」としては受け入れがたいという議論が蒸し返されるだろう。経済問題が政治問題となり、ギリシャのように政権が倒れ、国家主義的な政党が勢力を伸ばすということが起きる。つまり来年にかけてまたユーロ圏が政治的に揺れる可能性が高いということだ。

ユーロ圏の統合強化によってこうした事態を防ごうとするには、欧州はより根本的な矛盾を解決しなければならない。それはユーロ圏内の「固定相場」だ。固定である以上、競争力の強い国(ドイツやフィンランドなど)はあくまでも強く、競争力の弱い国(代表的にはギリシャ)はいつまでも競争力を回復できない。為替変動という手段がないからだ。固定相場のままこの問題を解決するには、さらに統合を進化させるしかない。すなわち富の移転を可能にする仕組みである。

日本という国の中だったら富を移転する仕組みがある。地方交付税交付金がそうだ。これによって税収が不足している自治体は、他の自治体とあまり変わらない住民サービスを行うことが可能になる。しかし主権国家同士ということになるとそう簡単ではない。ドイツなどは、他のユーロ圏諸国に対して「なぜドイツが支援しなければならないのか」という不満がずっと続いている。先の総選挙でメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が勝ったのも、メルケル首相が南欧諸国に対して厳しい姿勢をとってきたからだ。

とはいえ、ドイツが「一人勝ち」状態になった最大の理由は、域内貿易で勝ち組になったからであり、それは何といっても「域内固定相場制」に負うところが大きい。その意味では、たとえ国内政治的に難しい「支援」であっても、実はそこから得られる「見返り」はドイツを潤すはずだ。

今年から来年にかけて域内銀行の検査が行われ、その処理の方向が決まってくると、またこうした根本的な問題が顔を出してくる。それを統合を深化させるという線でまとめることができるかどうかが、ヨーロッパの先行きを占う重要なポイントになるだろう。

 

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