[遠藤功治]【初期対応の遅れがバッシング招く】 ~タカタ製エアバッグリコール問題 その2~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
タカタ製エアバッグリコール問題で、5つの点を検証します。
1. 原因がいまだに特定されていない。
今回のエアバッグの問題では、衝突時にハンドル内に埋め込まれているインフレーターが想定以上の力で爆発、中の金属片等が砕け飛び散り、運転手を傷つける、というものです。
タカタやホンダなどがその原因を調査していますが、今のところ、完全な原因は特定されていない模様です。一部その原因として言われているのが、このエアバッグの生産を担当したタカタのメキシコ工場、その生産ラインに於ける工程内に不備があった、インフレーターの中に充填するガスや火薬の欠陥、もしくは、管理体制の不備、高気温・高湿度による経年劣化、完成品・出荷品の在庫管理の不備、などです。
この中の1つだけではなく、何点が絡み合って複合的に今回の要因となったとも考えられます。タカタ自体は、当初からこの高気温・高湿度が主な原因という姿勢で、自動車メーカーと共に、米国でまずは南部地域に限定して、調査リコールを開始しました。ただ、今のところ原因特定には至っておらず、トヨタ自動車が各自動車メーカーに呼びかけ、お互いに資料を出し合い、合同で原因究明に取り組もうという動きも出てきました。
公聴会等で、米国の監督当局などから、調査リコールを全米に広げるよう要請を受けたタカタですが、そこに化学的根拠が無いということで、拒否したことになっています。「なっている」と言ったのは、タカタはリコールをすることが嫌だとは一言も言ってはおらず、ただ、生産能力が限られている中で物理的に供給することが不可能なため、より危険性の高いと思われる南部から優先的にリコールを実施したいとの見解を示しただけだからです。
ただ一方で、全ての製造責任をここで認め、調査リコールを全米に拡大すれば、そのコストたるや膨大なものとなり、収益、ひいては、会社の存続性にも疑問が付きかねない、との危機意識もあったと思われます。いずれにせよ、公聴会での印象は、タカタに相当不利に働きました。その後の米国からのフィードバックを聞くにつれ、タカタ経営陣はその認識の差に驚いたと思われます。
2. 初期対応・リコール対応が遅れた。
自動車のリコールですが、日本と米国ではそのシステム自体が違うのも、今回、真っ先に米国で問題が大きく取り上げられた理由です。リコールとは、なんらかの不具合が見つかった場合、その原因を特定し、なるべく早期に改良した部品と交換することを言いますが、前述のように今回は原因が特定されていないため、何をどう改良すべきがはっきりとは分かっていない、日本ではこの段階ではリコールとはならないでしょう。
ところが米国では、原因が特定されなくとも、とにかくリコールをして、問題と思われる個所をチェック、必要であれば品質的に問題が無いと思われる代替部品と交換する、という所謂“調査リコール”というものが存在します。ちなみに日本でも今回初めて、調査リコールを実施しますが、法律上今まで、日本にはこの調査リコールというものは存在しません。これを敢えて日本でも実施するとしたのは、多分に米国でのこの問題の拡大を無視出来なくなったということでしょう。
今回、タカタにしろホンダにしろ、メーカーとしての初期対応が遅れたことは否めません。特にタカタは、部品メーカーであるが故に、自分たちが率先してリコールをするということにはならない訳です。自動車会社がリコールを発表して初めて、交換部品等の増産など対策を打てる訳です。また、経営トップが公の場所に出て説明することもありませんでした。
ようやく最近になって、日経新聞のみから単独インタビューを受けていますが、もっと早い時期で、経営陣が説明・謝罪を行っていれば、今のような米国におけるタカタ・バッシングは起きなかったかもしれません。ホンダも同様で、米国に於いて、1,700件余りに渡り、問題不具合の報告を怠ったと指摘されています。これが本当にホンダ内部で認識されていなかったことなのか、ただ単なるコミュ二ケーションの問題なのかわかりませんが、社長による説明がより早い時期であるべきでした。
日本では不祥事の際のトップ、また広報の危機管理能力が欠如していると良く言われます。トヨタの米国における大量リコールの際も、広報の不手際が問題となりました。
(12月27日掲載予定のその3に続く。その後、その4、その5と続きます。)
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